15 修正(男子side)
唐突な橋本の言葉にベルトを引っ張っていた手を思わず放してしまってベルトが反動で元の位置へと戻っていく。血液が急に早く流れてきて体中の熱が上がってきた。
「そうなのかな。」
「いや、お前はほんとに着地点わかってるのにいつまでも降りてこないよな。」
自分が恋愛に対して無関心だったせいか核心を突かれたことによって急に今までの出来事が脳内で高速に再生される。
「いい加減に自覚しろ。見ているこっちが焦るわ。」
「だけど、飛鳥さんには彼氏がいるんだ。」
そう彼女には彼氏がいるんだ。だからこそ僕は自分自身の扉に鍵をかけていた。だけどその扉は橋本の手によっていともたやすく開けられてしまった。溢れんばかりの気持ちが出てきてしまう。それを話すたびにパンパンだった風船がしぼんでいくようにどんどんと不安や葛藤がなくなっていく、
「自分で言うのもあれだけど俺はモテる。」
頭をガラス窓にくっつけてながら橋本は自賛の声をあげた。しかし、それは喜びを含んだ声ではなかった。
「お前も知っての通り俺は女性恐怖症だ。だけど、好きな女性くらいはいるさ。」
「それは優里さんかい?」
冗談交じりで僕はよく橋本の追っかけをしている彼女の名前を出す。橋本はふんと鼻で笑ってはガラス窓に円を書くように指をなぞる。
「恋も知らなかったお前に教えるわけないだろ。ほら、早く帰ろうぜ。」
エンジンをかけると乾いた音が出てくる。まだこんな時間なのかと時間の流れに違和感を覚えた。運転していては橋本は僕の自覚のなさについて永遠と指摘し始めた。その言葉が一つ一つ的確すぎて気持ちが落ちるばかりであった。話の中には中学で自分が思ってもいない方向からの子の告白をきれいにスルーしていたことなど自分の疎さにあきれるものさえあった。
「飛鳥ちゃんに彼氏はいないぞ。なんだったら今日聞いてみろよ。」
「できるわけないだろ。みんながいる前で。」
だけど、彼女自身から聞いたことだ。一体どういうことだ。彼女が僕に嘘をつくメリットは一体どこにあるのだろうか。考えれば考えるほどに彼女の事が分からなくなってきている。
「おい、家通り過ぎてるぞ!」
気づいた頃には数百メートル先まで車を進めていたことに気づく。慌ててバックをしながらゆっくりと車を戻していく。
「帰ったらお風呂上がりの飛鳥ちゃんにばったりだったりしてな。」
余計な口を出す橋本にぺちりと頭をはたいては反応が分かっていたのか橋本が笑う。一瞬でもそんな想像してしまった自分がやるせなくて仕方が無かった。
駐車場に車を停めて自宅の様子を伺う。リビングから光が漏れておりもうお風呂から出てきたのだろう。両手で段ボールを抱えて階段を駆け上がり橋本に扉を開けてもらう。
「ただいまー。」と声をあげた瞬間に玄関の扉が強く締まる音が聞こえた。まだ橋本がはいっていないのにどうしたことだろうか。家に入ろうと玄関で靴を脱ごうとすると閉めた原因がすぐにわかった。
「えっ、蘭世?」
そこにはバスタオルで丁度リビングに向かおうとしていた蘭世の姿があった。一瞬の沈黙から蘭世もこの状況を理解した瞬間に彼女の顔が一気に真っ赤になるのがわかる。
橋本の言うことが微かに当たっていたことを後悔した瞬間、蘭世の悲鳴が僕の自宅に響き渡った。