14 集い(女子side)
「ありゃ、やっちまったかも。」
その出来事は布団を敷き終わってから絵梨花が気づいた。目の前にはきっちりと敷き詰められた布団たち。しかし、よくよく寝られる人数を数えてみると頑張っても5人が限界だった。絵梨花は顎に手を当てながら打開策を考える。
「あのやっぱり私帰ります。」
一人増えたことによって頭を悩ませるくらいなら今ここにいる私が去ればいいのだから。しかし、彼女はうなりながらじっと敷き詰められた布団を見つめている。その考えている様子が彼の横顔と重り出した時に彼女は納得したかのように私に向き直る。
「飛鳥ちゃんは寝るときは私の部屋で寝ましょう。それまではみんなと一緒にいていいから。」
ここに来ての突拍子もない彼女の提案に返す言葉が出なかった。
「それとも、雅晴の部屋で寝る?それでもいいよ。」
「いえ、それだけは駄目です。絶対。」
彼女は私の気持ちを知ってか知らずかで悪戯っぽく微笑みながら私をからかってくる。
布団がようやく敷き終わって、私はリビングの机で静かにペンを握っていた。気をきかせてくれたのか絵梨花さんは勉強がはかどるようにとクラシックをかけた。生憎私自身がクラシックに興味が無いせいか曲自体は聞いたことはあったが残念ながら曲名までに辿り着くことができない。
「ずっと気になってたけど何学部なの?」
「心理学部です。」
「そうなんだ。大学には慣れた?」
慣れてはきました。と言葉がでかけてはいたが今までを振り返ってみると風のように無意識にそしてあっという間だった。
「実感がないんですよね。大学生になったってことに唯一実感がわくのは最近一人暮らし始めたことくらいです。」
氷がカランと音をたてて崩れていく。絵梨花さんが何か話そうと口を開いたときに丁度玄関の方から話し声が聞こえてきた。
「生田さーん、すいません。女子だけ全員戻ってきました。」
優しそうな声が聞こえたが聞き覚えのない声だ。絵梨花さんはパタパタと玄関の方へと向かっていった。その後に私も続いていく。
「あっ飛鳥ちゃん。」
そう言って蘭世が私の体にもたれかかってくる。その感覚が心地よくてついつい笑みがこぼれてしまう。一方で見知らぬ二人の女性が私と蘭世の様子をまじまじと眺めていた。
「飛鳥ちゃんてあなたの事ね。宝条君が言ってた。」
まさか、ここに来てまで彼の存在が出てくるとは警戒心が高まってくる。思わず掌に湿り気がうっすらと感じた。
「さあさあ、お風呂の準備もできてるから。さっさと入っちゃって。」
手をパンパンと叩いては指揮を取りはじめる。相変わらず蘭世に抱き着かれながらずるずると私はリビングへと戻っていった。