06 決意(女子side)
金曜日になって私の目の前にはいつもよりも大きめの荷物を抱えた三人が忙しそうに昼食を取っている。会話の内容はもちろん今日の話だった。
「お風呂とかどうするのかな。もしかして、共有とか。」
一人で盛り上がっている星野を見ながら飛鳥は盛り下がっていく一方だった。彼女は健気に生田先輩のことを思っている。それなのに私は簡単に諦めてしまうようなそんな単純な女だ。
お泊り会とは私にとってはほど遠いものだろう。ましてや好きな男の家に行くなど万里の長城並みである。
「飛鳥は行けないんだよね。」
未央奈が眉を下ろして残念そうな声をあげる。そんな表情をさせた私にだんだんと腹が立ってくる。行けるものなら行きたい。
「何時から行くの?」
「そろそろかな。他に来る人もいるみたいだし。」
「そっか。」
今からでも遅くはないのではないかと一瞬頭に語り掛けられる。しかし、それは一気に湯気のように消え去っていく。せっかく決意したのになぜ今更考え直す。変な意地がどんどんと積み重なっていく。
「ねぇ、飛鳥ちゃん。」
蘭世は私の耳元までやってきて小声でつぶやく。
「いつでもいいから来たかったら連絡して。」
去り際に髪の匂いがふんわりと漂う。いつもの蘭世の髪の香りが違う風に感じた。あこがれの先輩なのだからだろうか。もし、今更ながらに彼が蘭世に告白して来たら彼女は何て答えるのだろう。
「飛鳥さん。遅いから探しましたよ。」
ボーっと考えていたらこれだ。しかも、全員にこんな様子を見られたくなかった。タイミングが悪すぎる。この空気を察していない宝条は笑顔のままじっと私を見つめる。
「それじゃあ、またね。楽しんできて。」
私は今にもゆがみそうな表情を我慢して三人に手を振る。何か言いたげな蘭世に背をむけながら私は颯爽とこの場から去ろうとした。少し早足になりながら図書館へと向かっていく。その後を宝条は悠々とついてくる。
「そんなにあせんなくてもいいんじゃないの。まだ、時間はあるんだし。」
図書館への階段を駆け上がりながら私は彼をキッと威嚇した目で見つめるが、怯えることなく彼は笑顔のままだった。一体、この笑顔の裏に何が隠されているのかいつか紐ほどきたい。
「飛鳥さんは好きな人はいるかい。」
図書館の扉を開こうと瞬間に彼は私に優しく問い掛ける。ただし、彼の表情から笑顔が消えていた。
「僕は君が何と言おうとも好きだよ。」
大胆な告白というものこういう事なのか。あっけらかんとして返事の言葉のひとつも思い浮かばない。ただ、一つ言えることがあった。彼にも譲れないものがあれば、私にも譲れないものがある。
「私にも好きな人がいます。それは揺らぐことはたぶん無いと思いますよ。」
飛鳥は宝条にそう言い残しゆっくりと図書館の扉を開けた。