05 経緯(男子side)
「ごめん。2名増えるかも。」
橋本はその言葉を聞き、驚くかと思いきや首を横に振った。ここに来てまさかの断れという残酷な選択を僕に迫るのかと身構える。しかし、それと同時にスマホの画面を僕の前に突きつける。
「2名じゃなくて、5名の間違いな。」
スマホの画面を見ると蘭世とのやりとりが書いてあったトークがある。上へとスクロールしていくと突然橋本に指を抑えられ行き過ぎと指摘された。突然のことで頭が真っ白になっていたせいか画面の内容が頭に入ってこない。ようやく見つけた文面には金土日に3人で勉強を教えてほしいという内容。しかし、実際にお願いに来たのは堀さんだけ。
「堀さんしか俺はきてないけど。」
「じゃあ、仮に堀ちゃんが挨拶代表だったら。」
なるほど、言い方は悪いがハメられたという事で僕の頭は納得をした。しかし、それだけでは残り2名は誰かと気になってしまう。
「残り2名は白石さんと深川さんだろ。たぶん、お前のことだから白石さんの様子が気になって深川さんにも手伝ってもらおうとしてるだろ。」
完璧な解答だった。これが試験であったら120点の解答である。目の前で呆れている友人に申し訳なさを感じつつもこのことを絵梨花にどのように伝えればよいのか雅晴は悩んでいた。2人教えるはずがまさかの5人になってしまうとは、まさに自分の手違いとはいえ落ち込むのだった。
「まあ、あれだ。がんばろうぜ。」
今年一番の蝉の声が励ましの声に聞こえた。
アイスで冷えた頭で今までの経緯を思い出して、改めて周りを見渡すと全員が一心になってノートとプリントを見ながらペンをひたすら走らせている。この緊張を一回でも崩してしまったらこの勉強会は失敗すると雰囲気からして肌にひしひしと伝わってきた。
「橋本、ここの問題どうやって解くの。」
「このくらいの生物の知識は持っておけよ。こっちの参考書に書いてあるから。」
手渡された参考書はびっしりと1ページ1ページにコメントが書いてあり、年期がはいっていた。彼が才色兼備と言われるのにも納得してしまう。橋本は自分の勉強をしながら器用に聞いてくる質問に答えている。
「まさくん。この問題がなんでこうなるか教えて。」
「ここの方程式をつかって解いてみてください。それと白石さんは前にこの講義取ってましたか。」
雅晴から手渡された教育系の講義の資料を見ながら、白石は鼻をフンと鳴らす。自信満々の顔で一つのファイルを雅晴に手渡す。
「伊達に先輩やってないわよ。教えてくれる御礼はきちんとしないと。」
そこには過去のテストの資料がびっしりとつまっており、見るだけでお腹がいっぱいになりそうだった。後に聞く話によると、前日に深川さんと共に血眼になりながら必死にかき集めたらしい。
「ありがとうございます。後でやってみますね。」
しかし、雅晴と橋本の予想に反しテスト勉強は思ったよりも苦戦を強いられていた。如何せん大学一年生の初めてのテストのせいか容量がどうしても悪くなっていた。
「蘭世、ここ違うぞー。」
まるで塾に来ているかのように個別に呼び出しては間違っている問題を一つ一つ解説していく。夢中になっていたせいで、時刻は午後10時を過ぎようとしていた。むしろ、よくここまで集中力が続いたものだと雅晴は今日来たメンバーに感心しかなかった。
「そろそろ終わりにしますかって言ってもみんなまだまだ終わりそうにもないみたいですね。」
何故ここまでして皆気合が入っているのか疑問になって仕方がない。単位がかかっていることはあるだろうがそれにしても違和感がある。その違和感に気付いているのはこの時橋本だけだったのかもしれない。