02 すれ違い(女子side)
目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く中、私はタオルケットに身を包みながら静かに眠っていた。普段なら母親が無理やりでも起こしにきたのだが、今はそんな気をつかって起こしに来てくれる母親もいない。かれこれ半月前から一人暮らしを始めた。まだ不慣れなことはあっても何とか生活はできていた。
「もうちょっとだけ。」
眠い目をこすりながらめざまし時計をとめようと手探りで目覚まし時計をとめようとする。
突然、玄関のドアがガチャガチャと音をたて、重々しい金属音が部屋の中に響く。
「飛鳥ちゃーん。起きてるー。」
部屋のカーテンが開けられ、思わず顔を太陽の光から逸らす。私を迎えに来た蘭世が慣れたように部屋の整理をし始める。ここに引っ越してきてからというもの一人でできないことが多々あり、蘭世にも手伝ってもらっている。
「早くしないと授業間に合わなくなっちゃうよ。」
「うん。顔洗ってくる。」
ひとつ欠伸を大きくして背伸びをする。ロフトの階段を一つ一つ降りながら、ようやく蘭世と顔を合わせた。
「机借りていい?」
どーぞと背中越しに言葉をかけた。歯を磨きながら、今日の予定を思い浮かべる。
昼から大学へ行って、講義、講義、自習…。
大学の休み時間がここ最近では飛鳥にとって一番つらい時間だった。思い出すとドンドンとマイナスなイメージが膨れ上がっていく。彼と偶然すれ違っても、それは辛くなるばかりだった。いつもみんなの中で笑っている彼を見ても辛くなるが、逆に彼に会わないでいても辛くなる。そんな矛盾の中で心は揺れ動いている。
口をゆすいでいると、リビングから蘭世の声が聞こえてくる。
「ねー、今週末はなにか予定ある。」
何もないといえばウソとなってしまう。今週末には奴との勉強会がある。周囲にはばれていない様に行動をしていたつもりだったが、蘭世に不意に見られてしまって隠すにも隠せない状況になってしまった。
「ごめん。宝条さんと勉強することになってた。」
「そっかー、なんか最近すれ違いが多いね。」
蘭世のぽつりと言った一言が心にチクリと刺さる。何を言っているのか大体は察しがつく。
口にもしなくても分かるのが返って恐ろしい。
「実は今週末に生田先輩の家でテスト勉強するみたいな話になってて。堀ちゃんはもう予約取っておいたって言ってるよ。」
事が先に進み過ぎていて理解の処理が追い付かない。慌てて、冷水で顔を洗う。夏にもかかわらず、水があまりにも冷たくて肌が引き締まるのを実感する。
「なんでそんなことになってるの。」
「さぁ、分からない。けど、堀ちゃんはいろいろ教えてもらうって言ってたよ。」
「そうだけど。けどだよ。」
クローゼットの中の衣装ケースからズボンを選びながら私はこの件に関する不満をつらつらと述べていた。自分でも訳が分からなくなるくらいだったし、ただ単にそんな素直に教えてくださいと言える未央奈が素直に羨ましかった。
「飛鳥ちゃん、やっぱり妬いてるでしょ。」
否定しようと体ごと振り返ろうとすると足のつま先から激痛が走った。声にならない痛さに思わず屈み込んでしまう。
「素直じゃないと、こうも罰が当たるのかね。」
捨て台詞のように蘭世は一言宙に向かって言葉を吐き捨てた。それを見ていた飛鳥は否定どころではなく必死に痛みを和らげていた。