30 帰り道(男子side)
「雅晴さん。どういうことなのか教えてくださいよー。」
入学祝を兼ねた夕食の後の帰り道、雅晴は飛鳥と二人で本屋にいたことを星野に問い詰められていた。夕食の最中でも星野は駄々っ子のように雅晴から理由を聞かせろと言ってばかりなのだが、当の本人である雅晴はただ笑ってごまかすだけだった。
ちらりと隣にいる堀さんに助けを求めようもするも、彼女はこの状況を察したのか力なく首を振るばかりであった。
突如手首をつかまれ振り返ってみると星野さんが涙目になっている。
「なんか言えないことでもしたんですか?」
「い、いやみなみさん。だからね、僕が齋藤さんを本屋に…ぶっふ。」
突如、背中に重みがはしる。この荒っぽさは桜井か。背中をさすりながら桜井を見ると、こっそりと指文字で『言うな』というサインをだしていた。
すると、橋本が僕のそばにやってきて耳打ちをする。
「乙女心わかってないなー。好意寄せられてるんだから、ちゃんとそれに答えてあげるのが男ってもんだろ。」
「っていってもどーすればいいんだよ。」
男二人が急に隅で急に話し始めれば自然と人は足を止めてこちらが気になるものだ。歩いていた5人は足を止め、こちらを見る。
「それは自分で考えろ。」
ただ一言そう言って橋本は5人の中に戻っていった。僕も急いでその列の中に入っていく。隣にはいかにも不機嫌そうな星野さんが歩いている。
好意を寄せてくれるのはいいが、僕はまだ恋というものを知らない。だから、どう反応していいかもわからない。橋本は考えろといった。てことは答えはあるのか?
前のほうで楽し気に蘭世と桜井と会話をしている齋藤さんが目に入る。さっきもそうだったけど、あの本買っておいたほうがよかったのかもしれない。過去に西野教授に言われたことを思い出す。
『恋愛や結婚。人の心にかかわることは科学では証明できへんよ。』
当時はまだぴんとは来なかったが今になってようやく意味が分かる。しかし、嵐のようにそれがやってきた。態勢も何も取っていない状態で災害が起きたら人はどうなってしまうのだろうか。もちろんのこと混乱状態に陥ってしまう。雅晴の心もそうだった。
駅の改札につき橋本がお疲れさまと解散を告げる。みんながそれぞれ帰路へ着こうと歩き出す。
「みなみさん、ちょっと待って。」
堀さんと帰ろうとしていたみなみさんが振り向く。その顔には何かをあきらめたような様子がわかる。
「いいんですよ。理由とかもう話さなくても、いいんです。」
彼女の声がだんだんと小さくなっていく。今、僕が考えていることは正しいことなのだろうかな。これを言ってしまったら、この先の選択肢はどうなってしまうのだろうか。僕は不安でしかなかった。
なぜか齋藤さんの顔が浮かんだ。そうだ、彼女には彼氏がいるんだ。
「みなみさんさえ良ければ、6月は無理だけど7月二人でどこか行きませんか?」
自分でも何を言っているのかわからなかった。ただ、わかるのは目の前の星野さんが喜んでいること、それだけ。追って連絡すると伝え、僕は橋本と桜井のもとへ戻る。
「雅晴さ、ひとつヒントをだすよ。」
橋本は重要な場面では僕を下の名前を呼んでくる。人差し指を僕の胸に軽く突き当てて言葉を続ける。
「後悔しない人ただそれだけ。」
「は?」
思わず疑問の声が漏れる。それを聞いた紫音が笑い出す。
「唯一、俺が生田に勝てるとしたら恋愛偏差値くらいだな。」
大声で笑いながら桜井は僕を馬鹿にしてくる。否定もできないのがなんだか馬鹿々々しくてつられて笑いだす。この先はどうなるのかわからない。だからこそ証明したかった。
恋とはどんなものなのか。