27 キマグレ (女子side)
「そういう齋藤さんはいるのかい。」
恋愛に興味のないはずの彼からまさかの質問に動揺が生まれる。先ほどまでのゆとりのあった心のスペースが急に狭くなり始めていた。しかし、ここでいないと言ってしまうとまた呆れられてしまうのだろうか。
「い、いや。います、いますよ。彼氏くらい一人や二人。」
意地っ張りな私がまた出しゃばってきた。今すぐ私の心の中に入れるのならこいつをボコボコにしてやりたいほどだった。
「そうなんだ。一人や二人ってのはおかしいと思うけど。やっぱり恋愛しないと可笑しい?」
彼は疑いもせずただ納得していた。今更、笑いながら嘘ですなんて言えない。生田先輩は普段メガネをかけているせいなのか無意識に鼻の付け根を上にあげながら疑問を投げかけてくる。
「そんなことはないと思いますよ。それに自分のやりたいことを夢中にやっている人は素敵だと思います。」
「それは慰めととらえていいかな?ありがとう。水取りに行ってくるね。」
「あっ。ありがとうございます。」
またもや失言をしてしまったかもしれない。慌てて彼を引き留めようとするも言葉出てこないことに自分自身でも焦っていた。生田先輩が席を立ってからまたひとつ大きくため息をつく。
「あー、また変なこと言っちゃったよ。」
自分自身に苛立ちながらそれを課題にぶつけようとする。しかし、冷静になれない状況から飛鳥は課題に集中することができずにいた。
「あー、もう。」
ペンケースに無理やりペンを詰め込み、プリントをばらばらの状態のままファイルに押し入れる。もういっそ、逃げ出してやろうか。そんな暴挙に出ようとした時だった。
「だいたいは終わったの?」
生田先輩が水汲みから戻ってきて机の上の状況をみてきょとんとしている。
「はい。あとは生田先輩からやり方を教えてもらったものを写せば終わりですね。」
「そっか、なら橋本に連絡をいれるね。」
彼はスマホを開き橋本先輩に連絡を入れようとする。その状況になんだか寂しさを感じる。今日の私は何かしら変だ。感情の振れ幅が大きすぎと自分でもわかっていた。
ならば己の感情、欲に素直に従ってみたらどうなるのだろうか。変に気をつかわず自然体のままでいたら。
飛鳥はすべてを受け入れた瞬間、気づいたら雅晴のスマホを取り上げていた。突然の出来事に雅晴もただ驚くしかできていない。
「齋藤さん。連絡できないから返して。」
「本屋に行きたいです。」
迷惑だと分かっている。ただ、もう少しだけ一緒にいたい。そんな気持ちの表れなのかすぐ近くの本屋にいきたいと懇願した。何をしても無駄だと思った生田先輩はあきらめたのか渋々本屋に行ってくれることになった。
私は彼のスマホをぎゅっと握りしめたまま本屋へと向かっていた。返してほしいのかずっとスマホを取り返そうとタイミングをうかがっている。
「スマホ返してよ。ちゃんと本屋に行くんだから。」
そういって手を伸ばそうとする雅晴の手の甲をペチンと乾いた音で払う。悪戯っぽく笑う飛鳥に雅晴は戸惑いを見せるばかりであった。
「嫌です。そういって、橋本先輩に連絡するんでしょうから。」
これが私の素。はたしてあなたは受け入れてくれるのかな。もし受け入れてくれたら私はあなたに恋がしたいです。