23 和解 (女子side)
ようやく言えた。ただこの一言にどれだけの時間を費やしたことか。考えれば考えるほど自分はプライドの高い人間だと思えてくる。
彼は私の言葉できょとんとしている。うーんと考えながら頬を指で掻きながら私を見つめる。ひとつひとつの彼のしぐさがどれも不安に思えてたまらなかった。
「もしかして、課題のことで申し訳ないと思ってるの?それなら…。」
違う、そんなことじゃない。男という生き物はどうしてこう鈍い生き物なのだろうか。私は慌てて軌道を修正しようとする。
「違うんです。」
思わず強く言ってしまった。人が少なくなったせいか周りには昼時を過ぎたせいか人があまりおらず私の今の声が響いていなかったか気にする。すると私の目元に何かふわふわした感覚が伝わる。ふと、見てみると彼が手を伸ばしながら私の目元を拭いている。
「つい気になっちゃって、ごめんね。だけど、思い当たることが無いんだ。むしろこっちが謝らなきゃいけないことがあるんだけど。」
飛鳥は状況をようやく把握したのか雅晴の行動に思わず涙が止まる。ただ飛鳥は雅晴の行動を拒むことなく受け入れた。
熱心に私の涙を拭いている彼を見ながら私は彼の言葉の意味を考えながら先に口を開く。
「入学式の時に勘違いをしてました。実際に蘭世とかに話聞いたらそんなことはしない人だって聞いたから。」
雅晴はなにか考えていたのだろうか急に拭いていた手をとめる。すると、今度は急に小刻みに肩が震えはじめた。飛鳥は雅晴が笑いそうになっている意味が理解できなかった。
「なんで、笑っているんですか。」
「笑ってるように見える?いや、僕も同じことを考えていたからさ。はい、終わりましたよ。」
彼の手が遠ざかっていく、さっきまでのぬくもりが消えていくことになんだか寂しさを感じる。だからってまだやってくださいとも言えない。
そんな事を考えているとふと雅晴が視界に入り込んでくる。それに気づいた飛鳥は今考えていたことが読まれていたのか心配になり、慌ててスマホの画面の自分と目を合わせることにした。
「大丈夫だよ。ちゃんと拭いたから元通りかな?」
彼は私の顔の周りをちらちらとあちこち眺めながら笑っていた。いや、私はそんなことはどうでもいいんだけどな。やっぱりどこかずれてるのかな。軌道修正をしようと慌てて話を戻す。
「じゃあ、その、あのさっきの話は。」
空いた席をぼーっと眺めながら雅晴はなにかを考えている様子で飛鳥はだんだんと不安になってくる。もしかして、許してくれないのではないかと。沈黙を破るように口を開く。
「許すも許さないもお互い勘違いしてたんだから気にしないことにしようか。」
あまりにも単純明快な返答に思わず喉から変な声が出そうになった。しかし彼はそんなことはどうでもいいみたいで私のレポートの問題をまじまじと眺めはじめる。
「ありがとうございます。生田先輩。」
私は聞こえるか聞こえないかの声で彼の集中を削がないように御礼をするが、そんな彼は子供のような好奇心の目でプリントと向かい合っていた。先ほどまでとは違う表情が私の何かに突き刺さる。