22 和解 (男子side)
雅晴は急な言葉に思わず姿勢を直した。飛鳥がいった言葉をもう一度考える。ごめんなさいと率直に言われ思い当たる節が無かった。頬を指で掻きながら雅晴は涙ながらに見つめてくる彼女と目を合わせる。
「もしかして、課題のことで申し訳ないと思ってるの?それなら…。」
「違うんです。」
齋藤さんが僕の言葉を遮る。しかし、これ以外に関して僕はなにも思い当たる節が無かった。齋藤さんの頬に黒い涙が落ちてくる彼女はそれに気づいていない。
僕はただ見てるだけでは可愛そうなので、なるべく化粧が崩れないようにそっとハンカチで黒の涙の軌跡を拭いていった。
テーブル越しとはいえ、なんだか気恥ずかしいものだ。彼女も気づいたのか急に涙が止まった。僕はそのまま涙を丁寧に拭きながら彼女に話しかける。
「つい気になっちゃって、ごめんね。だけど、思い当たることが無いんだ。むしろこっちが謝らなきゃいけないことがあるんだけど。」
そう。あの入学式の時にやってしまったこと。今のうちに誤解を解いておかないと。
「入学式の時に勘違いをしてました。実際に蘭世とかに話聞いたらそんなことはしない人だって聞いたから。」
先に言おうとしたことがまさか向こうも考えていたことに対し、雅晴は思わず拭いていた手をとめる。そして、自分と彼女が同じことを考えていたことに笑いがこみ上げてくる。
「なんで、笑っているんですか。」
「笑ってるように見える?いや、僕も同じことを考えていたからさ。はい、終わりましたよ。」
ハンカチをカバンにしまいながら僕は目をぱちぱちと動かしている彼女に目がいく。
すると彼女は首を傾げながら気づいたかのように慌てて携帯で自分の顔を見はじめようとするがその行動がたどたどしくて高校時代の蘭世と姿が重なって見えた。
「大丈夫だよ。ちゃんと拭いたから元通りかな?」
「じゃあ、その、あのさっきの話は。」
僕は先程の話を思い出した。彼女は不安そうに僕を見つめる。
周りは昼のピークを過ぎたのかどんどんと人が減り、今ではこちらの声が簡単に人混みに消されない程度までになっていた。空いた席を横目に見ながら言葉を探す。
「許すも許さないもお互い勘違いしてたんだから気にしないことにしようか。」
はたしてこの言葉で彼女は納得いっているのであろうか雅晴は自分が考える最大限の女子の知識で言葉を選んだ。レポート用紙を一枚手に取り問題を眺める。
「ありがとうございます。生田先輩。」
小さな声ではあるが僕の耳に彼女の声が聞こえる。ただ、勘違いしても嫌だから僕は聞き返すこともせずただ問題を眺めることにした。