16 昼ごはん Part1 (女子side)
私達の後ろで店員のざわつきが耳に入る。先程まで三人だった鏡台にはいつの間にか店員やお客さんまで集まって来ていた。中には熱心な人もいるようで真剣にメモを取るような人までいる。
「蘭世、やっぱり色違うみたいだからこれ変えてきて。」
蘭世もアシスタント状態で足りないものや道具の受け渡しなどをやっている。一方で桜井は人目も気にせずただ黙々とメイクに没頭していた。
飛鳥は周りの目が気になるのかついつい俯いてしまう。しかし、すぐさま桜井に顎をもたれ正面をむけさせられる。そのたびにうつる自分の顔が変化していることに気づく。
「俯くなよ。やりにくくなるだろ。」
注意を受けても恥ずかしくてどうしても返事が小さくなってしまう。ブラシが頬を伝わってくすぐったい。目を細めながらくすぐったさをごまかす。
「おい、グロス塗るとき口触るけど平気か。」
最後の仕上げなのか飛鳥に質問をする。口調は乱暴だが女性に対しての気を使いように思わず飛鳥はにやけてしまう。桜井はグロスを手の甲につけて色を確認していたが飛鳥の様子に気づく。
「なんか可笑しいこと言ったか。」
「いえ、意外に気をつかってくれるんだなって。」
あぁと納得したように桜井は返事に困った様子を見せた。意外に素直な性格なのかもしれないと私は可愛いなついついと思ってしまった。
「まったく。やっぱり、お前性格変わってるな。で付けるのか付けないのか。」
「大丈夫ですよ。つけてください。」
呆れながらも飛鳥の唇にグロスを丁寧に塗っていく。桜井の指は慣れた手つきでむらなく唇に色を染めていく。蘭世もワクワクした様子で飛鳥を見ていた。
「まぁ時間ないからこれくらいかな。」
鏡にうつっている自分を見てみると先ほどまでとは違う自分がはっきりとうつっていた。桜井先輩も満足した様子で手をハンドタオルで拭っていた。しかし、その周りには多数の女性店員やお客さんが囲んでおり私と蘭世はもはや蚊帳の外状態になった。
「さっき買った服着てきなよ。絶対似合うから。」
「だけど桜井先輩を待たせたら悪いよ。」
興奮気味の蘭世を私は落ち着かせ、桜井先輩を見るが女性たちの質問の受け答えに対応していた。しばらくかかりそうだったので私は蘭世を連れてトイレの個室へと着替えにいった。
「やっぱり桜井先輩はすごいなー。みんな集まってたもんね。」
「そ、そうだね。あんなことできるって知らなかった。」
トイレの扉越しでの会話。飛鳥は誰かに聞かれては恥ずかしいと警戒しながら話す。着替え終わり扉を開けてみると女子トイレにはお昼時なのか行列ができていて、飛鳥は他の人に対し申し訳なさでいっぱいになりながら列をかき分け外へ出た。
すでに蘭世は外に出ており暢気に鼻歌を鳴らして、その横では先程買った道具を整理している桜井がいた。
「すいません。お待たせしました。」
待たせたことに対し謝るが全く気にしてないのか桜井先輩は無言で私にさっき買った商品を渡してきた。
「あっ、お金いくらですか。」
「いいよ。いらないからあげるだけだ。あと、もう少し服明るめの方がいいかもな蘭世。」
「そうでしたね。まだまだ勉強不足です。」
紙袋を無言で渡されてぽつんとたっている私を置いていくかのように二人は歩いて行った。
どこへ行くのかも知らず鞄に紙袋をしまおうとチャックを開けるとそこにはレポートが数枚、思い出せと訴えかけているのか顔をのぞかせた。