12 試着(女子side)
「これどう思いますか。桜井先輩。」
蘭世が服を私に重ねながら桜井先輩に聞いている。桜井先輩は気難しい顔をして、首を横に振った。一体、いつになったら試着に行くんだ。
飛鳥のだるそうな様子に気づいたのか橋本と星野が気を使って寄ってくる。星野の手にはいくつかのハンガーが握られていた。
「飛鳥ちゃん。お疲れの様子だね。」
「疲れてないですよ。大丈夫です。」
「そっか。まぁ、無理しないようにね。疲れたら生田休憩所があるから。」
笑いながら橋本先輩は生田先輩の方向を見る。見てみると未央奈と生田先輩が話している様子が目に入る。遠くから見ても分かるが、ものすごくのんびりした空気が流れている。
「飛鳥ちゃん。この2着試着してみよう。」
一瞬、生田休憩所やらに足を運ぼうとしたが蘭世に声をかけられ再び試着に戻っていく。試着室に入り上を見上げる。吹き抜けの天井から明かりがはいっており外からはみんなの声がする。ため息を吐きながら飛鳥は着替えはじめた。
明るい密室の中、鏡に映る着替え終わった自分を見つめる。そこには自分とは似つかわしい大人びた少女がうつっていた。思わずもう1回ため息を吐く。スタイルがもう少しよければな。そんなことを思いながら、試着室のカーテンをゆっくりと開ける。
一瞬、店の照明で目を思わず細めてしまう。徐々になれてきて目を開けてみるとそこには一番この格好を見られたくない人物が目の前にいた。
「おーいいね。似合う似合う。なぁ、生田。」
「う、うん。」
急速に顔に熱を帯びているのが飛鳥には分かった。恐る恐る生田の表情を見てみると真剣な顔で飛鳥のことをジッと見つめていた。思わず恥ずかしくなって顔をうつむける。
「飛鳥ちゃんには青系が似合うと思ったのでちょっと暗めの紺色のワンピースと...。」
蘭世の説明を私も一緒になって聞いているが謝れてないせいか飛鳥は生田本人がいる目の前では全員の前で上手くしゃべることができず、ただただ頷くことしかできなかった。
説明を終えると私は急いで2着目をもってすぐさま試着室へと駆け込んでいった。あの純粋な目から逃れるために。黙々と着替えているとカーテン越しから桜井先輩の声が聞こえた。
「齋藤。後で話あるから終わったら俺と一緒に来い。」
突然の呼び出しにワンピースのチャックを閉める手が止まる。あまりにも急な呼び出しに私は動揺してカーテンを開ける。目の前には先程の話を聞いていたのかみなみが笑顔で私の顔を見つめる。
「さっきの話聞いたの?」
「なーんにもー。ただ、飛鳥ちゃん動揺してて、背中のチャック開けっ放しであれ見えてるよ。」
しらばっくれる星野に動揺しつつも飛鳥は鏡で後ろ姿を見ると、中途半端にチャックを開けて動いたせいで背中がざっくりと開いており下着が露わになっていた。
踏んだり蹴ったりとはまさにこの事をいうのだな。私は男子の先輩に見られなくてよかった安堵しチャックを閉め直す。蘭世を呼ぼうと思ったがどうやら生田先輩と取り込み中のようだ。
あんな風に笑えたらきっと可愛いと思われるんだろうな。飛鳥は一人また明るい密室へと戻っていった。