08 待ちぼうけ(女子side)
「たまたま、必修講義でとっている内容がここに書いてあったから読んでいただけですよ。」
とっさに出た言い訳が効いたのか、何とかごまかせたみたいだ。
「そうか、他学部は自然科学論か。」
「そうなんです。ただ、7月末に試験あってもう無理ですよー。」
「さっきの人にでも勉強教えてもらったらいいじゃないの。ほら、紙切れの。」
私はポケットからくしゃくしゃになった1枚の紙きれを取り出す、同じ大学の三年生であり彼と同じ理科コース。教えてくれることはありがたいのだが何故かためらいがでる。どこか後ろめたい気持ちもあるし頼りたい気持ちもある。
「それともー、もう先客がいたりとか。」
核心を突いた質問にどの言葉で返せばいいかわからなくなり思わずはうっと間の抜けた声が出る。桜井先輩に言われたことがようやくわかった気がした。私ってわかりやすい性格なのだと。赤っ恥をかいた私にただ奈々未さんは声に出して笑っていた。
「なに。恭大?やめておきな、姉である私がいうのもあれだけどモテるのよあいつ。」
「いえ、橋本先輩は優しいですよ。とても女性が苦手だと思わないくらい。」
「まあ、身内の話だけど。恭大にはあなたのことは事前に伝えておいたからね。飛鳥っていう子が行くからよろしくって。」
意外な気の使いように奈々未さんがかっこよく見える。一見冷たそうに見えるが年下思いなんだと。いつもはこんなからかわれている関係だがいざとなったときに本当に頼りになる人だ。だけど、いつも思うのは奈々未さんが橋本先輩の話をするときはいつも悲しい顔をするのはなぜだろう。今の私に踏み込む権利はないと思って喉の奥にその疑問をしまっておいた。
時刻は7時を回ろうとしていたころ奈々未さんは待ちくたびれたのか、エプロンのひもを解きはじめたたみ始める。私も帰り支度をしようと従業員室に戻る。こんな強い雨で果たして来れるのだろうかある意味それで来いっていう奈々未さんも鬼だな。
自分のカバンを整理しながら今日母親に買い物を頼まれていたことを思い出す。まだ、近くにスーパーがあることがありがたい。買うものをメモで確認していると店側の扉があく音が聞こえた。
「1年くらいかしら?久しぶりに会えると思ったら遅れてくるなんていい度胸ね。」
ガタンと扉が閉まる音と同時に奈々未さんの威圧的な声が聞こえてくる。
「すいません、ギリギリまで待たせてしまって。教授の手伝いしてたらこんな時間に。」
「もういいから、はいこれ。1620円ね。」
聞き覚えのある声だった。あれ以来まともに会話ができる機会もなくただ挨拶を交わす関係になっていただけの彼の声だ。急いで確かめようと鞄に荷物を詰め従業員室をでようとするが、机の脚に膝をぶつけ一気に悶える。膝をさすりながら扉を開けるとぶつけた跡に風の冷たさが走る。
「え。齋藤…さん?」
目の前には雨のせいか少し濡れたカーディガンに黒縁眼鏡をかけた、いつもの彼がカウンターの前に立っていた。