05 悪魔(男子side)
「お願い事があるんだけどいいかな。」
洗い物を終えた深川さんが手を丁寧に拭きながら僕に対してやんわりとした口調でお願い事をしてくる。
「まいやんのレポート教えてあげてくれないかな。」
「え。それなら深川さんが教えてあげればいいんじゃないんですか?」
先ほどまで机に伏せていた白石の顔がひょっこりと上がる。白い顔が余計白く見えてほんとに人間なのかと思えるくらいだった。
「それができればいいんだけど、実際私も解くのに手いっぱいだし、教える自信もないんだよね。」
「せやで、生田君。やったらええやん、今のところ全部レポートできてるし。」
返答に困る中、僕の背中になにやら柔らかい感触のものが当たる。後ろから手を回され顔の前にスマホ画面が現れる。他人から見れば白石さんと密着していて羨ましいだろうが、僕にとってみれば蛇に絡まれるネズミの気持ちになった気分だった。
「この写真バラまれたくなかったら、教えて。」
「脅されなくてもやるつもりでしたし、密着しないでください。」
眼鏡を直しながら一つため息をつく。今日確信したことが僕にとって白石さんが女神ではなく悪魔だってこと。もう作業を切り上げようかなと西野教授を見ようとすると彼女からまたもやクッキーを無理やり口に詰め込もうとしてきた。
「んぐんん。」
必死に抵抗しようともやめてくれないので、またもやクッキーを食べさせてもらう羽目になった。食べたと思ったら不機嫌そうな顔で無言のまま自分のデスクへと戻っていく。
窓を見ると大粒の雨が張り付いている。今から旧校舎に行くにしても古い校舎なため雨漏りがひどいことであろう。それにこの様子だと鍵を渡してくれなさそうだし。
「西野教授―。ここで課題やってもいいですかー。てか、やりますよー。」
呼びかけても返事がない。これは完全にむくれていることを僕はこのとき確信した。ここはそっとしておくのが一番だと思って作業をやめ白石さんの課題をやり始める。
雨脚が激しく研究室に響く中、僕は白石さんに一から解き方を教えていた。さすがに齋藤さんみたいに一から教える必要がないため課題はテキパキと進んでいったのだが一つ気がかりなことがあった。
「西野教授。いい加減に僕にわざと紙屑投げてくるのやめてもらえませんか。」
「いやや。」
そういってまた僕に紙屑を投げてくる。あまりにも理不尽な行動に僕は少しイライラしていた。だんだんとエスカレートしていく地味な嫌がらせにとうとう痺れをきらした僕は最終手段にでることにした。
ゆっくりと立ち上がり、西野教授の目の前に向かう。西野教授は疑問の顔を浮かべながらきれいな瞳で僕をじっと見つめる。あんまりこういうことはやりたくはなかったが仕方がない。
「教授には呆れました。今日限りで研究室を出ていきます。ありがとうございました。」
そういって僕は荷物を片付け始める。さすがに先輩たちも驚いた様子を見せるが口パクで冗談だと伝えると、深川さんと白石さんはこの先がどうなるのかとワクワクとした視線をすぐさま西野教授に向けた。