01 お手伝い(男子side)
外で雨が降りしきる中、僕は外窓のふちに張り付きながらゆったりと歩くナメクジをボーっと眺めていた。一体、このナメクジはどこへ行くのだろうか。そんなくだらないことを考えていたら、頭に重みを感じた。目線を上にあげると頭上には大量のファイルがのせられていた。どうやら僕の休憩は終わりみたいだ。
「ほーら、生田君。はよ、ファイル整理せんと日が暮れてまうで。」
「教授無茶が過ぎますって、急にきて資料の整理なんて。」
今日は本来ならすぐに帰る予定がたまたま廊下で出会った西野教授。いきなり、研究室に来いと言われてついて来たらこの雑用だ。おまけにその後研究室には。
「はい、雅くん。これもよろしくー。」
「ちょっと、白石さん。これはそっちの仕事ですよね。」
「まいやん、雅くんに自分の押し付けちゃだめだって。」
自分の作業場に戻ったと思えば、一個上の先輩である白石麻衣に資料を束になって机に置かれる。それを見過ごさなかったのか同じく先輩である深川麻衣がすかさず止めに入る。しぶしぶ白石は口を尖らせながら渋々資料を自分のデスクへと持ち帰る。
「そういえば、深川さんたちは講義ないんですか?」
「うん。私たちはこの時間から研究室でゼミの時間だから。生田君は大丈夫なの?」
「はい。この時間からは基本的に空いてるので、帰ろうとは思ったんですけど。」
そう言ってちらりと西野教授を見ると、彼女は暢気に鼻歌を歌いながらコーヒーを啜っていた。
「なんや、なんか文句でもあるの?」
椅子をくるくると回しながら僕に語り掛けるがどうせ暇だったことから返す言葉がなかった。毎回思うが彼女には何かしら弱点はないのかとかれこれ探してはいるが全然見つからない。むしろ、探す度に僕が墓穴を掘る羽目になっている。
「ねえ、生田君。」
突然の深刻そうな白石さんの声に思わず顔を上げてしまう。深刻そうな顔をして僕に何かを訴えかけようとしている。
「どうしよう。おなか減った。」
心配して損してしまった。ここの研究室には深川さん以外にまともな人はいないのかよ。思わず心の中でつぶやく。
白石の嘆きが耳に入ったのか、それともこの状況に疲れたのか西野が大きくあくびをする。それにつられて、深川もあくびをする。のっそりと西野が動き出したかと思えば、ロッカーからごそごそと物音を立てる。
「そろそろ、お茶にする?なんか、みんな疲れ始めてるみたいやから。」
そういいながらロッカーの奥から出してきた缶には大量のクッキーが詰め込まれていた。きっと、こそこそと溜めていたのだろうかと思うと何ともかわいらしく思えてくる。どうせ頼まれるだろうといつものところからやかんを取り出しお湯を沸かしていく。先輩二人はワイワイとクッキーを缶から取り出し食べ始めた。客観的に見てみると自分はもしかしたら物凄い空間にいるのだと、紅茶を入れながら実感していた。