26 うどん屋 (男子side)
肩に手の感触が伝わってきて振り向くと西野教授が荷物を持って立ち上がっていた。
「もう着いたで。」
スタスタと先に料金を払ってバスを降りていく。僕は慌ててペンをケースに入れ、バスの出口に行こうとする
「ごめん。僕ここで降りないと。また、なんかあったら聞いて。」
「あっ。」
彼女は何かを言いかけていたがこれ以上バスを止めるのも迷惑なので後で聞くことしかできなかった。せっかくいいところだったのにな。番組のいいところで次週へ持ち越しとなった時のあのもどかしい気持ちと同じくらい。
「あのまま、バスに乗っていてもよかったんちゃう。」
外で待っていた西野教授が手の爪を見ながら僕を責め立てる。街灯が薄暗く彼女を照らしているせいか寂しげな様子に見える。学生からよく聞こえる声なのだが教授はいつも切なげな表情をしているためなのか守ってあげたいという声が多く聞こえてくる。実態を知っている僕にとってはそんなことはないのにとよく否定している。しかし、こう考えてみると確かにみんなの言っていることは確かに間違ってはいないみたいだ。
「誘いを急に断るほどそんな薄情じゃありませよ。早く行きましょう、おなかが減りました。」
さっきまで切なげな表情だった彼女はパッと顔が明るくなり目を細めて子供のような笑顔を見せる。バス停から歩いてすぐ行きたいといっていたうどん屋に着く。
平日のせいなのか客足が少なくすんなりと入ることができた。カウンター奥の隅のテーブル席へと僕らは座る。座るなり、彼女はメニューを開き目線があっち行ったりこっち行ったりとしていた。たぶん、迷っているのだろうな。頬杖を突きながら調味料台に並べてある調味料を眺める。こんなにあって使い道はあるのだろうか。
「なな決まったー。どうぞ。」
パタンとメニューを折りたたんで僕に差し出す。普段はうどん屋なんてめったに来ないので開いた途端のうどんのバラエティの豊富さに驚いてしまった。
「うどんって結構種類あるんですね。」
「せやねん。なんか、麺の太さも選べるみたい。」
彼女の迷う気持ちが分かったかもしれない。僕はこのままではらちが明かないと思い、呼び出しボタンを押した。
「お決まりでしょうか。って、雅晴君と、えっ西野教授がなんで。」
ある意味一番見られたくない人に見られてしまった。最近になって何故か会う頻度が増えてしまった斉藤優里に僕は嫌気がさしていた。