17 進展(女子side)
外に出るとさっきより雨が強くなっている。傘をさして歩き始めるとぴちゃぴちゃと雨粒がはじける音がきこえる。雨が強いせいか人通りが少なくなっていた、それが私のテンションをあげているのか思わず水たまりを避けながら前へ前へと進んでいく。
楽しみながら水たまりがたまっているタイルの上を乗り越えていく。すこし、油断をしてしまったせいか小さな水たまりに足をつけてしまう。ゲームオーバーである。生田先輩を置いて先に来てしまったが、ちゃんと来ているのだろうか気になって振り返ってみる。傘置き場の前でじっと見つめながらやがて傘を取らずそのままこの雨の中を歩き始める。
先ほどまで持っていたのに傘を取られてしまったのだろうか。雨は彼に対し同情もないのか容赦なく降り続ける。すぐさま、彼のもとへと駆け寄りめいっぱい腕を伸ばして彼の上に傘を差しだす。
「濡れますよ。」
折り畳み傘は小さくて思ったよりも入りづらい。思ったよりも彼の体が大きいことがわかる。せめてもと思い多少濡れる覚悟で彼の頭上に傘を差す。しかし、それに逆らうように彼は傘の外に出ようとする。
「大丈夫だよ。バス停も10分くらいで着くし。」
「私もそこのバス停なんで大丈夫です。それに風邪ひかれると困ります。」
私はそう言って無理にでも傘の中に入れようとした。風邪をひかれるのも勘弁だし、それをみすみす見逃すほど薄情な私ではない。すると諦めたのか傘の中に入ってきた。少しかがんでいて歩きづらいのかゆっくりと歩く。もう少し背が高ければそんな子供みたいな願望が生まれる。突然傘が引っ張られやがて傘は先ほどより高い位置になった。何も言わず生田先輩が傘を持ってくれた。いつも思うがそのさりげない優しさに惚れるところで私も一人の女の子なんだなと実感する。みなみがうらやましいと思う。素直に自分を出せるところが正直で羨ましい部分もあるし、少し嫉妬してしまう。ついつい、みなみとのことが頭からはなれない。
「最近、みなみとはどうなんですか。」
「みなみさん。うーん、特に何もないよ。特に課題とかも自分でやっているみたいだし。」
本当にそうなのだろうか。だけど、この人に限っては隠し事とかしなさそうである。一生懸命考えていることから、それは白であることが分かった。
「本当ですか?蘭世は。」
「電話で勉強を教えたくらいかなー。」
何かあるといって口を開けば勉強について。この人は頭いいがプライベートに関しては異常なほどのつまらなさである。もっと、電話の会話の内容やこういうことをしたなどといった内容が聞きたかったのにな。
「生田先輩の進展って勉強を教えることが基準なんですね。」
思わず嫌味ったらしいことを口出してしまう。普通ならば嫌われてしまうだろうがこの人ならそんなことは気にしないだろう。それくらいの器の広さを持っていることはいくつかの接点でわかったことだった。
「みなみさんのことどう思う。」
みなみのことを聞いてくるなんて彼にしては珍しいと感じた。みんなで買い物をした時の帰りの改札でのことが頭に浮かんでくる。やっぱり、みなみのことが気になっているのか。
「まあ可愛いですよね。私よりも素直だし、ザ・女の子って感じで生田先輩にピッタリだと思います。」
このもやもやした気持ちを振り払おうと自分の口調が厳しくなってきている。だけど、彼は平然とした表情でこちらを見ている。その純粋な目からは私のムスッとしている表情が見えていた。
「ピッタリってどういうこと。」
普段ならここでうろたえるはずの彼なのに今日は様子がおかしかった。いつもなら食いつかないことに食いついてきている。なのに、なぜそんな寂しそうな顔をするのか私は不安で仕方なかった。
「相性がってことです、彼女にでもしたらいいんじゃないんですか。」
心にもないことが口から出てしまう。言葉を吐いた後、体の中がスーッと冷えるのを感じる。ほんとはこういうことはいうつもりはなかったのになんで。否定してと懇願する思いで彼を見つめる。
「本当にそう思ってるの。」
彼のその言葉には力がなくて、私は何も言えなかった。たびたび触れ合う手の感触が温かくて、自分の心の冷たさまでもが解けていくような感覚に襲われていた。それは自分の涙腺までも溶けていくようだった。