12 かくれんぼ(男子side)
スーパーの自動ドアが開いて籠を一つ手に取りカートに乗せる。自動ドアが閉まると同時にドアが反応し開き始めた。自分の後に人が来たのだと思ったら、隣には齋藤さんがどうもと一言挨拶をする。
「うわっ、びっくりした。何でここに。」
「なんでって買い物に決まっているじゃないですか。」
齋藤さんは平然と答えながら目の前のジャガイモの大きさを見ながら2,3個袋に詰めていく。確かによくよく考えれば、スーパーなのだから目的が買い物なのは当然であろう。
無言のまま僕の前を歩いているが、買うものが重いのか先ほどから籠を持ち替えているのが目の前にいてどうも気になる。
「齋藤さん。重かったら、下のところ空いてるから籠置いたら?」
「大丈夫です。こう見えてちゃんと持てるんですから。」
意地を張っているのか頑として置こうとしなかった。それがなんだか可愛らしくて自然と笑えてきた。はたから見たら不気味かもしれないが今はそんなことどうでもよかった。
やがて突然急に立ち止まって僕の方を振り返る。何かを訴えるような眼をしていた。やがて、視線は籠へと移り察しが付く。無言のまま、僕は齋藤さんの籠を手に取りカートの下のほうへと置いた。
「ありがとうございます。」
「いいえ。これくらいのこと。」
彼女は小声ではあったがしっかりと耳に聞こえていた。素直ではないことは知っている、だからこそ本当の彼女が知りたかった。ただ、どう会話を切り出していいかわからない。
「齋藤さんはちゃんと課題とかやってるの?」
「やってますよ。また、馬鹿にしてるんですか。」
あの時のようにムッとした表情を見せる飛鳥。それと同時にそそくさと前にいき歩く速さも早くなってくる。必死になって追いかけようとするもカートが思うとおりに動かず追いつくことができない。やがて齋藤さんの姿を見失ってしまい、ただカートのタイヤ部分がガラガラと虚しく響く。先ほどまで意識していなかったせいか、店の音楽や周りの主婦たちの会話が耳に入ってくる。それが自分を小馬鹿にしているかのように聞こえて足を止めた。
「齋藤さーん。どこですかー。」
僕の呼び声に返事が聞こえるわけでもなくただ主婦たちの会話が途切れ、視線が集まってくる。確かにサイトウという苗字はたくさんいるから反応がしずらいのだろうか、同級生である斉藤優里も下の名前で呼んでといわれるし。となると、彼女の下の名前は確か。
「飛鳥。どこですかー。」
とりあえず下の名前で数回呼んでみるが一向に姿が出てこない。このまま帰ろうと思うが彼女の買い物籠も置いてあるため会計をしたくてもできない状況。仕方なく来た道を戻って探そうと振り返るとすぐそばに齋藤さんがいた。つまりはいなくなったわけではなくいつの間にかついてきていた形になっている。
「あっ、いた。」