11 もの好き (女子side)
「お、お疲れ様です。生田先輩。」
自ら外へ出てきたというのにうまく言葉が出ない。奈々未さんは私と生田先輩の関係性があったことに意外だったのか二人の顔を交互に見ていく。
「飛鳥ちゃん、意外ね。まーくんとも知り合いだったの。」
「奈々未さん、いい加減その呼び名はやめてください。もう、子供ではないんですから。」
やはり、橋本先輩の姉だからなのだろうか生田先輩の対応には手馴れている様子だった。その光景がうらやましく思えてくる。しかも、まさかのまーくんと呼ばれていることにも驚きであった。
「生田先輩は入学式に出会ったんですけどその時にいろいろあって。」
確かに知り合いとなるには様々なプロセスがあったことを思い出すが今この短時間で要約するにはとてもではないが私にとって難題であった。あーと言いながら何かを察したかのようにまたしても私たち二人を交互に見つめはじめた。次に何を言い出すかわからない恐怖が私に襲い掛かってくる。
「それよりもまーくんにしては珍しいわね。こんな初心者みたいな理科の参考書を探しているなんて。」
「え、いや。それは、わからない子がいるためにってか、教えるためってか。」
彼の声がたどたどしくなっていく。きっと、みなみの事だろうと私は確信した。顔を赤らめながら必死に弁解している彼がいつもより情けなくて可愛く見えてくる。普段もどこか抜けているようだけど今はいつも以上。
「なーに、あなたも気になる子がいる感じなの。」
あなたも。というワードに思わず背筋に電流が走りピンとした状態に伸びる。私まで動揺してしまってどうするんだ。そっと奈々未さんの陰から生田先輩をのぞくと思わず目が合うがすかさず逸らしてしまう。人がいるのになぜか大いに疲れを感じる。
「あなたたち面白いのね。今後が楽しみ。」
私のほうを見ながらそっと呟く。もうこの人に隠し事が通じないことが分かったし、なにせ目の前には彼がいる。彼に悟られてしまったのではないかと思うと顔に熱が集まり始めた。一生懸命に見られまいとするも特に隠れることもできずその様子を二人にまじまじと見られるだけだった。
「ほら、閉店時間よ。さっさと帰る。それともここで一晩でも過ごす?」
「それは勘弁です。この後、夕ご飯の買い物があるんで。」
彼はそう言って急いで支度をし始め、急いで店の外へと出て行ってしまう。もっと話をしておきたかったな、せめてその本の行方くらいは。無残にもその思いは儚く散っていく。痣となった膝を見ながら、心にもあざができてしまったような感覚だった。むしろ後者のほうが痛むくらい。
「わかりやすいわね。まーくんなんて、また物好きなひとね。」
「物好きって何ですか。」
自分のことを否定されているみたいで若干ムッとする私。再び二人となってしまった店内に奈々未さんの笑い声が響く。
「ふふ、まーくんはあなたみたいに子供っぽくて、ここがぺったんこの子には興味ないのよ。」
そういって私の胸のあたりを指さす。ハッとして即座に両手で隠すが特に意味もなく、ただの無駄な行為であった。人の気にしていることの一つをズケズケと。
「はいはい、ほら夕ご飯を買いに行ったみたいだからあなたも行ってみたら?」
「言われなくても買い物頼まれてるんだから行くんです。」
語尾が自然と強くなる。完全に気になっている存在がばれてしまい動揺する飛鳥に対し、ケラケラとずっと笑い続ける奈々未。わざわざ、気を使って教えてあげたが飛鳥本人にとっては、それは余計なお世話でしかないと奈々未は感じていた。
戸締りを奈々未さんに任せ、自然と早足になってスーパーへと向かっていく。話が途中で終わってしまったが先ほどの話は果たして本当なのか頭の片隅で気になっていた。