30 一目惚れ
近づくにつれ私の胃がキリキリと痛み始めたがみなみにお構いなしにと私を引っ張られながらもついに扉の前まで来てしまった。
「飛鳥ちゃんって意外にプレッシャーに弱いでしょ」
笑いながらバカにしてくるみなみに私は返す言葉がなかった。昔からプライドが無駄に高いせいか1つでも謝るということがあるとどうしても身体が反応してしまう。今もそう。生田先輩に謝るということがどうしても身体が反応してくる。
「じゃあ、先に私が行くから。飛鳥ちゃんは後から必ず来ること。それでいい?」
うんと言いながらも不安が蓄積されている飛鳥はそれどころではなかった。いよいよこの時が来てしまったし、なんていって謝ればいいか分からない。そんなこと思っても星野をもう止めることはできなかった。
ギシッと扉がきしむ音と共にみなみは扉にはいっていく。いつのタイミングではいればいいのだろう。扉の前で考えながら待っていると突如みなみが教室から飛び出してきた。
「どうしたの、みなみ。」
「ふぇ、なんでもないよ。」
明らかに様子が変だ。顔がリンゴのように真っ赤だし、それに話し方もぼーっとした感じになっている。
「とりあえず、今日はもう帰ろう。謝る機会は今度私絶対見つけるから。」
ぼーっとしている星野の手を引きながらこの光景を生田先輩に見られまいと飛鳥は一心不乱になって外に出ようとした。
「飛鳥ちゃん。生田にはちゃんと謝れたかい?」
必死に星野を連れ出そうとしているときに自ら生田を迎えにきた橋本が飛鳥達の目に前に現れた。飛鳥は寂しげに首を横に振る。
「あらら、みなみちゃんもいたのに。ん?てか、みなみちゃんどうしたの?」
橋本先輩もみなみの様子がおかしいことに気付いたか。みなみは先程と同じようにぼーっとしているようでぼんやりと橋本先輩にあいさつをしている。先程まで驚いていた様子だったがだんだんと何かを察したようで、みなみを見ながら笑顔を見せた。
「とりあえず俺は状況が分かったから、早くみなみちゃん達と帰りな。後はこっちで何とかしておくから。」
橋本先輩はそういいながら足早に生田先輩のいる教室の方向へと走っていってしまった。
一方のみなみはだんだんと正気に戻ってきたのか、外に出る頃には歩く足がしっかりとしてきたのがわかる。
もうすっかり外は夕陽に包まれておりようやく外にでれたことに安堵した飛鳥はぺたりと入り口の階段に座り込んでしまう。また謝る機会を逃してしまったな、もしあの場で待っていたらなど自分の行動を空を見ながら考え込んでいた。
「ねえ、飛鳥ちゃん?」
側にいたみなみが考えている私の側にそっと寄ってきて、先程と同じように顔を赤らめながら何かを言いたそうにしていた。私はその様子をみてまさにこの素振り1つ1つが女の子というものかと愛おしく思ってしまう。
「私ね、一目惚れしちゃった。」
「ん?」
今なんて言ったのか私には聞こえたのだが理解ができなかった。一目惚れ?単語自体小説を読んででてきた事は知ってはいる。しかし、実際に一目惚れというものがあるものなのかおとぎ話のような感覚で意味を流していたのにこんなところで起きているとは。
「飛鳥。なんだもう外でてたんだ。てっきり、まだ中にいるんだと思った。」
お腹をすかせた堀が待ちきれなかったのか蘭世と桜井と共に旧校舎までやってきた。飛鳥はひとまずこの場から一旦離れて状況を整理したいと思っており、星野のことは堀に任せ足早に四人は旧校舎を後に大学からファミレスへと移動することにした。
みなみから出た一目惚れという言葉。ファミレスへ行っても私の頭からは離れず、かといってみなみはあの教室でなにを見たのか、そんなことは聞けまい。3人で話が盛り上がっているなか私は気持ちがもやもやしたまま考え事をしていた。
桜の降りしきる中の彼の笑顔がふと記憶からでてくる。