20 パン
「なんでもないよ。うん、なんでもないから。」
「そっか、あなたも食べる?パン。おいしいよ。」
そういってわざわざ席から離れ私のもとへと寄ってきた。パンの香ばしい匂いと彼女の甘ったるい匂いでくらくらしそうであった。その手には食パンが丁寧にはいったボックスがあった。私はついつい気になってしまって、食パンを一枚手にとって口に入れた。
「あっ、今おいしいって思ったでしょ。ここの食パンおいしいんだよね。そういえばさ、名前なんて言うの?」
「飛鳥。齋藤飛鳥。パン、ありがとう。」
確かに食パンのくせにおいしい。もちもちとした食感が飛鳥には癖になっていた。あっという間にたいらげてしまったため手元が暇になってしまっている。すると、彼女は笑いながらもう一枚食パンを飛鳥にあげた。
「どうぞ、いっぱいあるから食べて。私ね星野みなみって名前。よろしくね、飛鳥ちゃん。」
食パンに夢中になっている私に積極的に話しかけてくれるみなみ、すると向こうから知ってる声が聞こえてきた。
「未央奈ちゃんさ、飛鳥ちゃん知らない?まだ、帰ってないと思うんだけど。」
「ううん。見てないよ、連絡した?あっ、みなみ。ん?飛鳥?」
蘭世と未央奈だ。蘭世はずっと自分の事を探していたんだ。蘭世は飛鳥を見つける限り、飛鳥の席めがけてすぐさま走ってきた。
「飛鳥ちゃーん。心配したよ、急に飛び出していってさ、みんな心配してたんだよ。生田先輩なんて焦ってたんだから。」
「そんなこと言ったって、あの場にいたくなかったんだもん。未央奈はどうしたの?」
「私は今ようやく終わったところでみなみを迎えに来たの。」
堀はそういいながら食パンを丁寧に食べているみなみを見た。すると、星野は蘭世に向かってぺこりとお辞儀をする、蘭世もそれに反応し慌てて一礼をした。いつの間にか女子会っぽくなってしまったこの空間、飛鳥にとっては初めての体験だった。蘭世も最初は警戒したものの徐々にみなみのことがうち解けてきたのか今では食パンをもらって口にほおばっていた。
「そういえば、未央奈それどうしたの?」
みなみは堀が持っていた蝶を指さしてしていった。その蝶は先程蘭世と飛鳥が見た長途同じものであった。そういえば、間違って持って行ってしまって事を飛鳥は思い出した。
「これ間違って持って来ちゃって返すのを忘れてたから帰りに理科室に返しに行くよ。まだ、先輩達いるかな。」