17 気遣い
飛鳥は蘭世の先ほどとは真逆の様子をみてわかりやすくて女の子らしいなと思わず頭をなでていた。
「生田氏からたまに君の名前を聞いていたからな。そうか、君のことだったか。連絡をしておこう。」
すぐさまスマホで連絡を取ろうとメッセージを送り始めた。どうやら、能條はすでに蘭世のことを聞いていたようで生田に私たちと会ったことを伝えた。
メッセージを送り終えた能條は身支度を整え、ドアの入り口に向かう。教室の戸締りのため閉めようとする様子だったので私達は慌てて廊下へ出た。
「あの、どこ行くんですか?」
静まり返った廊下を歩きながら蘭世は恐る恐る聞いていた。
その手にはいまだに返信を待っているスマホが握りしめられていた。
「理科室だ。そこに生田氏はいるぞ。」
そういって能條は飛鳥たちにスマホを見せてきた。
『生田氏の後輩が探している。』
『そっちの方はもう終わったの?』
『終わったから連絡しているのだろう。君の後輩に聞かれたから連絡しているのだよ。』
『今、スタンプラリー中で新入生待ちだから、理科室にいるよ。』
『了解。では、今から二人を連れてそちらへ向かう。』
まさか返事がかえって来ているなんて。蘭世の返事待ちは一体何だったのだろう。蘭世は悔しかったのか急にうつむいて無言になってしまった。
理科室に向かう中三人の中で無言の時間が続く。なにか話題はないものか、周りを見回すが目に映るのは真っ白な廊下のみ。
「寺田嬢、生田氏は忙しいためスマホが見れなかったと思うぞ。」
歩きながら突然能條が蘭世に対して先ほどの弁解をしてきた。しかし、いぜんと変わらずうつむきがちの蘭世。私自身返信来ないだけでここまで落ち込む子がいるのかと思うくらいであった。
「いいんです。よく無視されることが多いんで。」
「はは。確かに私たちに対してもそうだな。しかし、君のメッセージを見ているとき生田氏は寺田嬢にはきちんと返信しようと努力しているみたいだぞ。」
「それは何で分かるんですか?」
思わず私が口を出してしまった。しかし、なぜだか疑問に思ってしまった。知らない人のはずなのに自分の事のように思えてきたから。
「彼自身寺田嬢に嫌われたくないためか慎重に言葉を選んでメッセージを打っているからな、いつも見てる我々もついつい面白くて印象に残っている。」
蘭世から話を聞く限り雑な扱いをうけているからてっきり嫌っているのかと思ったのだが、飛鳥の考えに反して生田という男は蘭世のことをちゃんと考えていたのだ。ますます生田という男がわからなくなってくる反面に蘭世は機嫌がよくなったようで顔から笑みがこぼれていた。意外に蘭世は単純なのかもしれないと飛鳥は心にその言葉をしまっておいた。