12 レテノールモルフォ
入学式も終わり新入生が退場する中、私はさりげなく先ほどのハンカチを拾った男を探した。入り口付近に差し掛かると先ほどの男の顔が一瞬だが見えた、人混みをかき分け男のもとへ向かおうと試みるが流れに押されてしまい蘭世とともに外まで押し出されてしまう。
一瞬見えた男の顔、しかしその周りには先ほど知った先輩たちがいた。まさか、自分が変態扱いした人は先輩だったのか。私の心に一気に後悔の念が膨れ上がって、破裂寸前まで来ていた。
「そういえば飛鳥ちゃん。何かあったの、話したいことあるって。」
入学式が終わり二人でキャンパス内を歩いてる中、蘭世は活き活きとした声で今にも破裂しそうな私の中の後悔の念をツンツンとついてきた。
「そこまで、大変ってことでもないんだけど。今朝さ遅れてきたじゃん。あれさ、私がハンカチ落として、それを拾ってくれた人がいてね。だけど、その男の顔が妙に怪しくてさ。」
「なにそれ。もしかして、確認もとってないのに変態扱いしたとか?」
「いや、確認したはず。だけど覚えてないや。」
事実あの時は、頭が真っ白になっていたため明白には覚えていなかった。
ただ、言えるのは私と目が合ったとき一瞬男の顔が笑顔だったことである。
「うーん。その人に会えたらいいかもね。そしたら、あの時何しようとしてたのかわかるんじゃないの?ただ単に拾ってくれたとかさ。」
そう。私は一度その男に話しかけようとしたしかしあの人混みの中で話しかけるのは無理であった。しかし、この大学生活でその機会がはたしてあるのだろうかだろうか。
エントランスを抜け大きな液晶掲示板には様々な連絡事項が更新されている。
ほんとに入学してたんだな。つい先日まで学生服だったのが今ではスーツを着ていることに私は自覚した。ふと、液晶掲示板の隣に目をやると一羽の蝶の標本が飾ってあった。
「レテ…ノールモル…フォ?レテノールモルフォか。」
飛鳥はその蝶を見ながら名前を読み上げた。その蝶は鮮やかな青色の光沢をだし今にも飛び出しそうなくらいの迫力さがあった。
「飛鳥ちゃん。蝶好きなの?綺麗だよね。」
うっとり眺めているのが蘭世にはわかったらしく、蘭世も一緒に眺めていた。
そこまで動物や昆虫は好きではない飛鳥だったがなぜかこの蝶には見惚れてしまった。しかし、うっとりとした表情が見られたくない飛鳥はすぐさま表情を隠した。