09 変質者
「新入生の集合場所はこちらになっています。」
ここの教員なのだろうか、それにしては若く見える。門の前で新入生や両親を誘導している教員。私は目があったため、ぎこちなくあいさつを交わした。
「おはようございます。」
「入学おめでとう。これから頑張っていこうな。」
ぎこちなくあいさつした私に優しく声をかけてくれた。その教員の胸のネームプレートをちらっと見ると『西野』と書かれていた。母親と会場に向かおうとしたとき後ろから先程の西野という教員の声が聞こえてきた。
「お〜い、生田君。はよせんと式始まんで〜、橋本君が案内の準備しくれたらしいからそのまんまホールに来てな〜。」
「あらあら、面白い先輩もいるものね。飛鳥は先に会場に向かってちょうだいお父さん迎えに行かないと。すっかり忘れてたわ。」
そういいながら母親は父を迎えに校門まで道を戻っていった。時刻を確認しようとスマホを取り出すと蘭世からメッセージが来ていた。
『会場の前で待ってるね。』
私はそのメッセージを確認すると待たせてはいけないと自然と早足になり、式場へと緩やかな坂道を登っていく。
スマホをポケットにしまおうとすると私は違和感を覚えた。先ほどまで一緒にいれていたハンカチがない。どこに落としたのだろうかと後ろを振り返ると、一人のスーツを着た男が私のハンカチを拾っていた。スーツを着ているのだから、私と同じ新入生であろう。
そして、飛鳥の頭の中には昨日のニュースにあった変質者の話題が頭に浮かんだ。警戒した飛鳥はすぐさまその男のもとへ行った。しかし、この時どのようにして声をかければよいかわからなかった。だから、飛鳥はいつも通りに声をかけることにした。
「おい、それ私のだから返せ。」
「へ?」
飛鳥の言葉に対して驚いた様子を見せる男。やはり、変質者なのか。疑った飛鳥はすぐさまハンカチを男の手からもぎ取った。
「女子のハンカチとるってどーいうことだよ。変態!」
もはや自分の身を守るのに必死だった飛鳥は変質者と確定したわけでもないのについつい男に変態と言ってしまった。二人の間には沈黙が訪れる。飛鳥の頭が一気に真っ白になり、これ以上この場にいたらまたぼろが出てしまうと思いすぐさま蘭世の待つ会場へ向かう。