花言葉〜恋していいですか?〜







小説トップ
番外編
03 April (橋本ver)
新学期も過ぎ桜も緑色に染まり始めたころ。ある男は重大な危機に遭遇していた。この大学で一番厄介な講義の一つである設楽教授の『化学実験A』でそれは起こった。

「今日の片づけ当番は、うーん。じゃあ、生田と斉藤。」

設楽教授お得意の無茶ぶりには去年も頭を抱えたが、今期はもっと頭を抱えそうだ。俺の幼馴染である生田も同様で突然の指名で驚いていた。相変わらず昔から不幸な奴だと思いながら内心面白がっていた。

「教授。何回も言いましたけど、今日は西野教授から公開呼び出しが来てるんで片付けできないですよ。」

そういえばそうだった、実験前に西野教授が慌てて実験室に入ってきたことを思い出す。そして、直接生田に対し終わったら研究室に来るよう言っていたな。

「そーだったな。なら仕方ないなー。じゃあ、橋本代わりにやってくれ。」

突然投げ込まれた変化球に断るすべが見つからない。生田も心配した顔でこちらを見る。なんたって、俺は女子と二人きりという状況に対し体が拒絶反応をしめすからだ。

「生田、どうにかなんないのかよ。」

「無理だよ。あの人断っちゃうと泣いちゃうんだから約束守んないと。てか、後ろ。」

そういって生田が後ろに向かって指を指す。振り返ると話しかけるタイミングを伺っていた斉藤優里が立っていた。失礼だが、苦手なタイプ。小柄で一見可愛らしく見えるが、俺にとってはそんなの関係なかった。その理由としてはとても単純。

「恭大くーん。早く終わらせよーっ。」

バタバタと手を振りながら話す彼女の近くからガシャンとガラス器具の割れる音がする。

「おい、斉藤。また、実験器具を壊すんじゃないよー。」

そう。明るくて元気なのはいいが周りがよく見えていない。設楽教授にどやされながら必死に頭を下げている優里を見ていてみじめに思えてならなかった。


「ねー、なんでそんな遠くで洗ってるのさ。こっちきて一緒に洗えばいいじゃん。」

実験室では橋本と斉藤の二人だけの空間となっていた。お互い実験器具の洗い物をしているが橋本は斉藤とは遠くの方で作業をしていた。無言のまま水の音がする中、斉藤の声だけが響く。それが橋本にとっては雑音でしかなかった。

「いいだろ、別に。近くでやることに特に意味はないだろって。うわっ。」

先ほどまで距離をとっていたはずがいつの間にか隣まで来ている。彼女は笑顔で俺の顔を見て、隣で作業を始めた。俺はまた距離を取ろうと先ほど優里がいた場所に移動しようとする。

「なんで移動しようとするのさ。もしかして、女子が苦手だとか。」

思わぬ勘の鋭さに背筋が凍る。高圧的な態度でどんどんと彼女は俺に向かって歩みを進めてくる。ついには壁にまで追い詰められもう逃げ場がなかった。

「なんで苦手なの?」

好奇心旺盛な目で見つめてくる優里に鳥肌が立つ。苦手とかではない。原因は姉である奈々未にあった。中学校の時に姉を彼女に間違えられ、中学生にしては大人びた付き合いをしていたことが癇に障ったのかクラスで苛めを受けていた。そこからかな、奈々未とも距離をとり女子ともあまり話さなくなったのは。

「言ったところで優里には関係ないだろ。」

「ふーん。じゃあ、さっきのことは当たりなんだ。」

しまった、こいつカマをかけたな。完全に優里のペースに持っていかれてる。こういう時に機転が利く、生田がいてくれたらと懇願する。

もうばれてしまったならば仕方ないなと橋本は思いながら作業に戻ろうと斉藤の前を離れようとする。すると、突然口元に柔らかい感触が伝わる。一瞬の出来事に理科実験室に静寂がはしる。

目の前には顔を赤らめて笑っている優里。状況が呑み込めず、口元に触れると微かに潤いがある。

「お前、何したんだよ。」

「えー、女の子にそんなこと言わせるの。もしかして、初めてだった?」

これも当たり。こいつどんだけ勘鋭いんだよ。苦虫を噛み潰したような顔をしていると優里はケラケラとしながら作業に戻っていく。あまりにも初キスがあっけらかんと終わってしまい物凄い虚無感が漂う。

「いいじゃん。私も初めてだし。お相子だよ、お相子。」

「そういう問題じゃないだろ。好きでもない相手とするほうがおかしいだろ。」

斉藤は呆気にとられた顔をする。ふーんと目を細めながら、また静かに作業に戻っていく。
すると、ぽつりと言葉を漏らす。

「恭大くんてさ、意外に鈍感だよね。よし、おーわり。」

優里は洗い物を終えて実験室を後にしようと準備を始める。俺は返事をせず無言のまま自分の分の作業を続ける。ようやく解放されると安堵した時だった。

「今日は秘密2つもできちゃったね。ばいばーい。」

そういって颯爽と去っていく彼女。ただ冷や汗しか出なかった。誰にも言えない秘密ができてしまった。あまりにも唐突すぎるし、振り回されてばっかりでため息しか出てこない。

ようやく片付けも終わり、帰ろうと鞄をロッカーから取り出す。同時にチョコレートの箱が音を立てて床に落ちる。拾い上げると箱には何やら文章が書いてあった。

『今日は色々とごめんね。よかったらこれ食べて。好きだよ。 ゆーり』

慌てて廊下に出てみるが彼女はもういない。あいつのことだからそこかに隠れて待ち伏せしていると思ったがさすがにいないだろう。鞄を持ち上げ実験室を出る。

「なんだったんだ、あいつ。」

腕をみるといつからだったろうか先ほどまで出ていた鳥肌がいつの間にかきれいになくなっていた。思わず笑みがこぼれる。
これは俺と優里の不思議な関係の始まり。


■筆者メッセージ
おはようございます。
拍手メッセージありがとうございます。
昨日は更新できずすいません。
今日は友人の付き添いで乃木坂の物販に来ております。
特に買うものは無いのですが、雰囲気がとても面白いです。

返信メッセージ

名無しさん
メッセージありがとうございます。
はたして、一歩リードですかね?(笑)ここからの人間関係がどうなるか。女の子特有のがありますからね、そこら辺気にして見ていただくと嬉しいですね。

かずさん
いつもありがとうございます。
もどかしいのはとてもよくわかります。書いてる僕でも悶々としてますから(笑)
これからも楽しんでよんでください。

桜鳥 ( 2016/08/27(土) 08:38 )