花言葉〜恋していいですか?〜







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番外編
05 June(堀ver.)
ここの大学にもそろそろ慣れてしまったな。構内の廊下をゆうゆうと歩き回りながら、私は学生たちの様子を観察している。最近の楽しみといえる人間観察。しゃべらなくてもいいし、自分しか知らない情報だって手に入る。今目の前でも確かにそれは起こっていた。

空きコマがあって松村准教授との話が終わり借りた本を返そうと図書館に行く途中、第二実験室をドアのガラス越しで眺める。中では実験をやっていて、知っている顔ぶれが何人かいた。ガラス越しの目の前には生田先輩がいてもう一人は中田花奈先輩だ。

「うわっ、生田君っ。踏んでる、踏んでる!」

「え?あっ、ごめん。中田さん。」

実験をやっている中、目の前の生田先輩はペアである先輩の中田花奈さんの靴を誤って踏んでいたみたい。ドタバタしながら実験を進めていて見ているこっちが焦り始めていた。

隣の班をを見ると無言のまま黙々と実験を進める橋本先輩がいた。的確な指示でペアの学生とスムーズに進めている。それとは正反対で目の前では。

「ちょっ、中田さん。入れる分量間違ったよね。」

「うわっ、ほんとだ。ごめん。」

先輩たちの情けない姿を見てしまった。みなみはどこに惚れたんだろう。高校時代から知っている彼女の恋愛歴を見る限り、彼はどの人に似たようなものはなかった。普段なら共通点があるはずが全然見当たらない。

いつの間にか時間がたっていたことに私は気づく。そういえば図書館に途中だったことを思い出しその場を後にする。歩いている途中、また知り合いが私の目の前に入ってくる。
蘭世は知らない学部生に告白をされており、極度の緊張をしていた。まわりを見ても飛鳥はいないみたいだし、あのままだと可哀想だな。相手には悪いが友人のために一肌脱ごうとする。

「蘭世、聞きたいことがあるんだけど。」

近づきながら蘭世に向かって声をかける。男のほうはばつの悪そうな顔をしているが蘭世は表情が和らぎ相手に断りを入れそのまま私とともに歩き出す。

「助かったよ。二回目の告白だったからどう返していいかわからなくて。」

「飛鳥はどうしたの。いつも一緒にいるのに。」

「なんか、勉強教えてもらってくるとか言ってたから生田先輩のところじゃない。」

今の会話から一つ疑問点が浮かんだ。生田先輩は実験中のはずである。てことは別のだれかということになる。そんな言葉が出ようとしたときゴクリと喉の奥に押し込んだ。

「あっ、藤森教授に用事があること思い出した。ありがと、未央奈ちゃん。またあとでね。」

彼女は慌てて私が歩いてきた道を逆走していく。はたまた忘れていたが図書館に行かなくては。つぎの講義までまだ余裕ではあるがゆっくりとしたいところだ。しかし、そんな気持ちとは裏腹でまたしても知り合いが私の視界に入る。

「えーと、堀氏かな。しばらくぶりだな。」

「お久しぶりです。能條先輩。」

どこか古風な感じを漂わせる能條先輩。あの買い物時にもいなかったが、どうしたのだろう。

「そういえば、女性陣全員にお土産を買ってきたんだったどこだったかな。」

雰囲気で気づかなかったが彼がキャリーケースを持ち歩いていることに今更気づく。その場から四次元ポケットかのように次々と持ち物が出てくる。ようやく取り出したのが砂の置物が4人分入った袋。

「ゴールデンウィークにサハラ砂漠でとってきて現地で作った砂の置物だ。中々、面白いものだろう。」

確かに珍しいものではあるがそれよりもなぜ砂漠に行っていたのかお土産よりもそちらのほうが気になっていた。意気揚々とそのお土産について語る彼をただ頷くことしかできない。どれくらい時間がたったのだろうか、彼は思い出したかのように学長のもとへ行かなければとキャリーをガラガラと引きながら言ってしまう。結局、なにが言いたかったのか私には理解ができなくて、それについていける先輩方3人に感心していた。

チャイムが鳴り響く中、もう終わりの時間かと時計を眺める。図書館に行かずともこんなにも時間というものはつぶせるのか。そう思いながら私はまた図書館へと歩く。

いつもより遠くに感じる図書館に内心面倒くささが出てきてしまう。すると、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「ここにいたのか。連絡入れても全然でないから少し探したぞ。」

実験が終わって疲れが顔に出ている橋本先輩が目の前に現れていた。手にはファイルを持っていて、それを見て頼んでいたことを思い出した。物理のレポートの添削をお願いしてたんだ。

「ごめんな。あいつも中々忙しいもんで、これ見るだけでも一苦労したみたい。」

「いいんです。かえってあからさまにやってしまうとみなみと飛鳥に悪いんで。」

課題を受け取りお礼を言うが彼はそれどころではないようであたりを気にして見渡していた。すると、小刻みに靴の音が聞こえてきてこの音だと走っている音だとすぐにわかった。
その音が橋本先輩にも聞こえていたようですぐにそばにある柱の陰に隠れる。

「恭大くーんって、あれここにいると思ったんだけど。」

小柄で甲高い女子学生が呆然と立っている私と目が合う。彼女はニコッと笑うと私のもとへ近づいてきた。みなみとはまた別のタイプではあるが男が好みそうな雰囲気をかもしだしていることがわかった。白衣を着ていることから私の先輩であるとわかる。胸元の刺繍で『斉藤優里』ときれいに縫われていた。

「ねえ、顔立ちがスッキリしてて背が高くて頭よさそうな学生がここに来なかった?橋本っていう。」

思わず後ろの柱のほうに目をやると、すかさず優里さんはそこに近づく。見つけたーと甲高い声とともにズルズルと顔を真っ赤にした橋本先輩が出てくる。まさか、彼女から逃げてきてここに来たのか。

「堀、このことは誰にも言わないでくれ。もちろん生田にもだ。」

そう言って彼は優里先輩に手を取られながら実験棟へと戻っていく。一体なにを見せられたのだろうか。一瞬にして嵐が過ぎ去ってしまったかのようだった。

「つかれた。」

思わず気持ちが声に出てしまう。しかし、もうここまで来た以上引き返すことができないのでとぼとぼと図書館へと向かう。

ようやく着いた図書館。重い手動の扉をあけると6月の湿気が嘘のように中は乾燥しきっていた空間だった。カウンターで本を返していると聞いたことのある声が耳に入る。
無数に並ぶ本棚の奥にひっそりとある自習スペースからその声は聞こえた。

こっそりと2列前の本の隙間から覗く。そこには飛鳥と見知らぬ男子学生が仲睦まじく勉強をしていた。一瞬、飛鳥かと目を疑ったがあれは間違いなく飛鳥だ。いくら普段ボーっとしている私でもわかる。その時、スマホのバイブ音がポケットで鳴り響き、慌ててその場から離れ外で電話をとる。

『あっ、未央奈。今空きコマ?』

「うん、そうだけど。どうしたの。」

みなみからの電話は休講になったからどこかで4人でお茶でもしないかという話だった。
しかし、先ほどの光景を見てしまってはどんな顔をしてみなみと飛鳥と話せるだろうか。
曇り空を眺めながら深くため息をつく。人間観察も楽ではないな、ただ人の秘密を握るのも悪くない。また、機会でもあればこうやって散歩してもいいかも。

今日1日で人間観察の面白さを再認識した堀であった。


■筆者メッセージ
こんばんは。
たくさんの拍手メッセージありがとうございます。
番外編を確認したら構成的に6月の続きをしなきゃいけないことが分かりました。もう少しお付き合いください。
この話にはネタバレが入っています。今後の展開をこれで予想してくれると楽しめるんじゃないんですかね。ちなみに今回の番外編は読者さんからのリクエストで堀さんでした。次はだれを書こうかしら。リクエストお待ちしてます。

返信メッセージ
名無しさん
そうなんですよね、そろそろほかの男連中も何かしらアクションを起こしていきたいんですよね。どういう動きをするのか楽しみにしててください。

カズさん
何回もメッセージありがとうございます。
急な展開で驚いたかもしれないですが、まあいい意味で期待を裏切っていきたいですね。

わらびもちさん
何回もメッセージありがとうございます。
似た者同士って何やかんや縁があるみたいですね。

少しですが、ゆったん出てますよ(笑)
いずれ、活躍できる場を多くしていきたいですね(笑)
桜鳥 ( 2016/10/14(金) 01:27 )