05 夕ご飯
この状況はまずいと思いながら僕は急いでリビングへと向かっていった。
「姉さん。お酢の匂いが...。うっ。」
そこには、平然と椅子に座りながら唐揚げを食べている僕の姉の生田絵梨花の姿が。
「遅いよ〜、雅晴。おなか減りすぎて私がご飯作っちゃったんだけど、味もしないしお酢の匂いがきついし。」
「姉さん。まず何作ったんだよ。」
そういうと絵梨花は台所の上に置いてある丼ぶりを僕に見せてきたのだが、それはご飯の上に無造作に置かれた卵と少量の玉ねぎだった。しかし、顔を近づけてみるとまたお酢の匂いがムンムンとしてきてつい顔をそむけたくなった。
「なにこれ。」
「見ての通り、親子丼!だけどなんか味がしないんだよね。」
どや顔で返してきた絵梨花に対し、なぜそこまでの自信があるのだろうと絵梨花と丼ぶりを交互にみて僕はため息をつきながら調理の準備を始めた。
「もう、姉さん。今から僕が作るから先にお風呂とか入ってきてよ。」
「はーい。じゃあ、先にお風呂入ってくるからねー。」
僕はとりあえずこの劇物をどのようにしてリメイクするか考えているときにお風呂からご機嫌のいい歌声が聞こえてくる。姉は小学校の先生をやっているのだが何故か自分が大学で興味を持っていたフィンランド民謡を小学生に歌わせているみたい。よく親から苦情が来ないよなと思いながら、ある意味尊敬ができる姉だなと考えた。
「まあ、こんな感じでいいか。」
そんな事を考えながらなんとか牛肉とか調味料を駆使して劇物のリメイクに成功した。絵梨花がお風呂からあがってきて、料理を見た瞬間急いで髪を乾かす音が聞こえてきた。
「ねーねー。早く食べよー。」
まるでどっちが年上かわからないような絵梨花の振る舞いで僕自身も飽きれながら残りの夕ご飯の支度をした。その後、無事に夕ご飯を食べたのだが満足した絵梨花はその後ゆっくりするのかと思いきやリビングにて明日の授業の準備を始めた。
「そういえば、大学の方はどうなの?」
「ん?まちまちかな。」
食器を片付けながら返答する僕に絵梨花は珍しく大学の事について尋ねてきた。こう見えても、絵梨花の方は乃木大の音楽コースを主席で卒業していて、僕も教員という点では頭があがらないものだった。
「ふーん。明後日から二年生でしょ?そろそろ、先輩にもなるんだからさ、見た目にも気をつけたほうがいいよ。」
「例えば?」
うーん。と悩みながらじっくりと僕の身体を上から下までじっくりと眺めながら突然眼鏡に指を指してきた。
「まず、それ。そのダサい眼鏡をはずした方がいい!」
そういいながら僕の銀縁の眼鏡をぶっきらぼうに外してきた。