03 買い忘れ
「牛肉。牛肉っと。」
先ほど買い物したスーパーに戻り,買い忘れた牛肉の調達。他に何か買い忘れたものはないか探しているとき。
「あれ、生田先輩?生田先輩ですよね!」
ふと、目の前には突如現れたツインテールで小動物のような顔をしている少女がいた。
「あー、蘭世か。お久しぶり。」
「何ですか。その、薄いリアクション。久々の再開にテンション高くしてる寺田がバカみたいじゃないですか。」
いや、この場合どういう風にあいさつすればいいかわからないから。と苦笑いしながら思っていた。蘭世とは高校からの付き合いで自分が無理やりやらされていた学級委員の仕事の際、当時友達が少なかった蘭世に対し一緒の仕事をしたことがきっかけで話す機会が増えた。
雅晴の数少ない知り合いの女子のひとりなのだが、話す機会が増えた時から蘭世だけは異常にがつがつ来る女の子でよく雅晴は対応に困っていた。
「久しぶりでもないだろ。よくLINEで連絡してくるし。」
「しかしですね。先輩いっつも既読無視するじゃないですか。」
確かにそうだった。まずいと思った僕はすぐさま話題を変えることにした。
「そういえば、何でここに?」
「それがですね。ここの近くの本屋で大学の参考書を買っていたんですが、買ったついでにマンガも見てたらこれがまたたまらんもので…。」
蘭世に何かしらのスイッチが入り熱弁しはじめ、大体を要約すると。
参考書買おうと本屋によって漫画の立ち読みしてたら知らぬ間に時間がたち気づいたら夕方で、お腹が減っていたためここで買おうとしていたらしい。
「それでですね。寺田はこんなにも新しい漫画を買ってしまったのですよ。」
にこにこしながら見せてきた本屋の袋の中には複数の少女漫画と固そうな心理学の参考書が丁寧に入っていた。しかし、こんなにも違う漫画ばかり買っていて本棚の方は大丈夫なのかと毎回蘭世に対して考えてしまう。
「何食べるの?パンくらいならおごるよ?」
と、一通り話し終えた蘭世に対し聞いてみると本人自身目を輝かせて「いいんですか?」と尋ねてきた。
「寺田また先輩に恩ができてしまいましたね。ありがたや、ありがたや。」
「いいから、早く選ばないと帰っちゃうからな。」
蘭世はまずいと思ったのかすぐさまパン屋に向かっていき選び始めていった。
「夕ご飯まだなんだからあんまり多く買うなよ。」
スーパーの隅に併設されているパン屋のカウンターに並んでいる数々のパンに夢中になっている蘭世にいうのだが、今の腹ペコの彼女にとっては意味のないことの様だった。