21 避ける
なるほどもう告白の時期というものなのか、確かに星野のルックスを見る限り彼氏ができないわけはないなと雅晴は思った。しかし、色恋沙汰のない雅晴にとってはあまり興味のないことだった。
その様子とは対照的に星野は恋愛に積極的で今この場でも告白という快感に埋もれていた。
「僕はそういう経験ないからな。みなみさんはもてそうだね。」
「そんなことないですよ。みなみは普通の子ですから。」
以前橋本から聞いたことがある自分を普通と言っている子は小悪魔系の女子であるということ。まさか、こんなところで出会うとはと雅晴は少しの感動が生まれた。
すると学部棟から3人くらいで女子がでてきた。星野はその子達の顔を見るや手を振っていた。手の振るさきを見てみるとそこには見覚えのある顔ばかりが並んでいており、その中には蘭世と飛鳥の姿があった。蘭世は雅晴の存在に気付いたのか早足になって、こちらの方へ駆け寄ろうとしていた。
「じゃあ、星野さん。僕は用事あるから、また今度お話聞かせてね。」
この光景を彼女らに見られたくなかったのか僕は慌てて星野さんにあいさつをし、旧校舎へと向かっていった。ましては齋藤さんにまた変な疑いでもかけられたらとおもうと足が自然に駆けだしていた。
旧校舎の古いドアを急いで開け、誰もいない校舎へと入り、僕は少しずれた眼鏡を直す。よくよく考えてみるとなぜ逃げる必要があったのだろうか、普通にあの場にいてみなみさん達と話をしていても良かったのではないかと。ジャラジャラと旧校舎の鍵は誰もいない廊下に響く。
目的の場所に着き鍵を開けようとする。10本くらいあるうちの鍵を雅晴は手慣れたようにその扉の鍵を探し出しだし、ぎしっときしむ音とともに扉を開けた。
目の前には無数の数式が並んだ黒板と移動式黒板がおいてある。雅晴のいつもの事とは物理の問題をここで解くこと。黒板近くの机には無数のレポート用紙と論文で埋め尽くされている。雅晴は鞄をおろし一息入れるとすぐさま作業に取り組んだ。
「ふー。これも違うか。」
頭をかきながら一個一個の論文を証明していく。誰もいないこの空間で解く事が僕にとっては一番の心地よさであり唯一の楽しみ。これが僕の異名が付く原因ともなるきっかけで高校でも一際浮いていたしかし、僕がこの大学に入ったときに西野教授に出会った。そして今この場所も西野教授から提供された場所。だからある意味西野教授には頭が上がらない。
ちょうど窓から夕日が差し込んできた頃、チョークと黒板がぶつかり合う音が教室響く中扉のきしむ音が聞こえた。