19 単位
「生田君と橋本君は、今期はこの単位数でええのかな。」
「少ないですか?てか、教授勝手に自分の講義を入れようとしないで下さいよ。」
入学式から一週間たって雅晴たちは今期の履修する講義を決め終え、担任である西野教授のがいる研究室へ履修届けを提出しに来ていた。しかし、西野教授は届けをみると少し不機嫌な顔をし始める。
「ななの講義。あんま、入ってない。」
まずい。僕は慌てて橋本の顔を見るが橋本は慌てて目をそらした。一方で西野教授は頬を膨らませすねた様子で僕をにらんでいる。
「いや、今期はこれ以上単位取ると僕の頭がパンクします。」
「パンクすればええやん。」
さらっと一言。この言葉に思わず吹き出した橋本を僕は軽くたたいた。まったくこの人はそんなに僕の困る顔が見たいのか。
「分かりました。入れますから、なんでしたっけ他の講義。」
「ななの講義はこれとあと素粒子物理もおすすめやで。」
何とか単位の調整もしつつ出来上がった今期の履修表。自分だけ犠牲になるのはどうも尺に触るため橋本も同じように講義をとらせるようにした。満足げにコーヒーを飲む西野教授を見ながら雅晴は入学式に渡された課題の事を思い出した。
「教授。この課題どこに置いとけばいいですか。」
「ああ、そこらへんにでも置いといて。」
西野教授のデスクへと提出物を置きに行こうとしたときにふとある書類が目に留まった。
他大学からの依頼書のようなものがデスクの片隅に複数きれいに整えてあった。
僕はその依頼書を見ないようにとそっと課題をデスクの上へとおいた。
「どうやった?証明の方は。」
「できましたけど、途中から表現が曖昧になっていませんでしたか?たぶんあれ間違ってますよ。」
「さすがやね生田君。生物と地学は全くダメやけど。」
お見事言わんばかりに西野教授はパチパチと手を叩いていた。橋本に関しては何の事か理解できておらずただ流れでにやにやと笑顔を作っていた。
僕はそれに対してありがとうございますとしか言えず、苦笑いしながら西野教授が入れてくれたコーヒーを飲んだ。一通り話が落ち着いたのかそろそろ席を立とうとする。
「橋本君、ゼミは決まった?」
珍しいものだ、普段は西野教授から橋本に対してあまり口を開かないのに。橋本自身も少し動揺したのか一瞬肩が上がるのが見えた。
「ゼミはまだ決まっていないのですがなんかありました?」
「良かったら、うちのゼミ来る?」
何の風の吹き回しなのか、橋本も急な事で困惑しているようだった。しかし、橋本の成績を見ても西野教授の講義はA取ってる。普通にゼミの内容にもついて行けるだろう。
なにしろ、雅晴はこのゼミで一人という状況が嫌なのか、橋本に少しの期待感をもっていた。