09 最悪の出会い
僕は今とても焦っていた。なぜなら、大事な後輩たちの入学式にも関わらず代表としてあるまじき寝坊というものをしてしまった。ことの発端はというと、橋本からの朝のLINE電話から始まった。
「今日、来ないの?」
え。時刻を確認すると既に集合時間となっていた。
慌てて起きた僕は昨日絵梨花が用意してくれたスーツに着替え身だしなみを整え始めた。
「あ。コンタクト。」
昨日、橋本とともに買ったコンタクトが洗面台の上にきれいに置いてあった。今朝、余裕をもってつけようと思い昨日のうちに準備したものだった。しかし、今の雅晴にとってはコンタクトをつけている暇はない。いつもの眼鏡をかけコンタクトを無造作にバッグにしまい、バイクの鍵を取って急いで駐車場のバイクへと向かった。
「大学まで20分。式までギリギリかな、ああ、もう姉さん。」
今はもう学校で仕事をしているだろう絵梨花に対して、届かない怒りをぶつけていた。
バイクのエンジンをつけ、いつもの通学道をいつもと違う感覚で走っていった。
大学近くまで来たとき、真新しいスーツをきっちりきて親や友人と一緒に並んで歩いている姿がたくさん見えた。その姿を見た雅晴は不思議なわくわく感に包まれていた。
「お〜い、生田君。はよせんと式始まんで〜、橋本君が案内の準備しくれたらしいからそのまんまホールに来てな〜。」
大学の門の前で会場案内をしていたいつもとは違う身なりをした西野教授が僕を見付けた瞬間大声でお知らせをしてくれた。
とてもじゃないけど恥ずかしい。まさか、新入生の前でこんな大恥じをかくとは。今すぐにでも教授のもとに行き口を塞ぎたい。
そんな暇はないこと僕はわかっていたので、僕は人通りが少なくなった式場へと急いで向かった。心地よい風が僕の背中を押し桜が降りしきる中、式場へと緩やかな坂道を登っていく。
歩いている途中、ふと目に入った青いハンカチ。
目の前には顕著な後姿をみかけ、あの子が落としていったものかなと思いながら拾い上げた。たまたま、拾った青いハンカチ。頭からヒールの音がコツコツと聞こえた。
頭の先には目の前に現われた先ほどスーツをきた乙女。新しく僕の後輩になるはずなのなのだが突然。
「おい、それ私のだから返せ。」
「へ?」
拾ってあげたハンカチをぶっきらぼうに取っていく乙女。
「女子のハンカチとるってどーいうことだよ。変態!」
突然の乙女の勘違い発言に僕は返す言葉が無かった。
その乙女はハンカチを取り返すと早足になって会場の方へと向かっていった。
目の前で起きたことを冷静に思い返してみた。しかし、どこにも変態扱いされるところに思い当たる節が無い。後輩に対して善意でやったものがまさかの変態で片づけられるとは。
そんな事を考えていると、後ろから教授が息を切らしながらやってきていた。
「生田君。なにしてんの。はよせんと、遅れるで。はやくはやく。」
スーツスカートにヒールでよくこんな道走れるなと感心しながらも先ほどの事が頭から離れないまま、教授の背中を追いながら会場へと向かっていった。