何気ない時間
Dさんの屋敷を出た美音お嬢様は、昔より大きくなったBの背中に飛び乗った。
「えいっ。」
「わっ。お嬢様?」
「B。しばらくおんぶして。」
「わかりました。」
ゆっくりと美音お嬢様を落とさないようにBは歩いた。
「ねぇ、さっき高橋さんのところのA君と何を話していたの?」
「ちょっと世間話程度ですよ。」
口が裂けてもお仕えしているお嬢様に恋していて、相手も同じような境遇で、そんなボーイズトークをしていたなどと背中に柔らかな二つの膨らみを押し付けている実音お嬢様本人に言えるわけがない。
心拍数は上がる一方だから、若干バレていてもおかしくはないのだが、あくまで誤魔化しながら歩くB。
「そっか。そういえば、近々朱里さんのお誕生日じゃなかったっけ?」
「確かそうですね。」
「A君と朱里お嬢様ってきっと両想いだと思うんだけど、Bはどう思う?」
「両想いなら付き合っても良いとは思いますが。」
その言葉に対する返事はなかった。
その代わりに規則正しい寝息が聞こえた。
少しだけ歩くスピードを上げ、Bは美音お嬢様を背負い、家路を急いだ。
「B。好きだよ。」
(俺も好きです。寝ているならまだ言えません。)
ばっちり起きている美音お嬢様の告白を寝言と思い、Bは自分の本音をしまいこんだ。