新生活
光圀は、マネージャーになった。
研修期間を与えられ、それを終わり次第、正式契約となるらしいが、光圀は誘拐犯である自分を拾ってくれたメンバーの為にもやる気満々だった。
スーツに身を包み、名札を首から下げ、眼鏡も着用し、仕事に臨んだ。
「おはようございます。」
「おはよう。大塚さん。ちょっと、気を付け。」
「へ?」
「ネクタイ、曲がっているから、じっとしてて。」
「は、はい。」
「良し、オッケー。研修期間中にメンバーに手を出さないでよ。」
「そういう契約です。支配人」
「そこは名前で良いから。」
「はい。指原さん。」
〇
メンバーとの顔合わせのときがやってきた。
「みんな、注目!」
尾崎支配人の号令で全メンバー、スタッフの視線が光圀に向かった。
「人手不足等で雑用係のマネージャーを雇うことになった。それがこの大塚君だ。大塚君、自己紹介してくれ。」
「はい。大塚光圀です。至らないことだらけだと思いますが、よろしくお願いします。」
「みんなも仲良くしてあげてくれ。以上、解散。」
集会後、光圀の下に千尋達がやってきた。
「大塚さん。マネージャーになれたんですね。」
「まだ見習い、研修期間だよ。意地でもなるけどな。」
「その意気ですよ。」
光圀はメンバーの勉強をしていた。
そうこうしている内にお昼時になった。
普通のメンバー、スタッフは弁当だったが、光圀は手製弁当を持参するよう指示されていた。
これは莉乃の作戦で、光圀の料理を食べた人が光圀を良く見るようになるという図を描いていた。
今日の光圀の弁当はオムライスだ。
チキンライスに卵焼きをくるんだだけに見えるが、光圀が普通のオムライスに仕上げるはずはないのだ。
タッパーを開けて、カバンから
ケチャップを取り出し、HKT48と書き込んだ。
「大塚君、君のお母さんオムライスを作ったのか?」
「尾崎支配人。いえ、母は去年他界して、父も早くに・・・。僕の家には今、僕一人です。ひとりっ子だったこともあって。この弁当は僕が作りました。」
「悪いな。一口もらって良いか?」
「ええ。」
光圀はアルミカップを取り出し、そこにオムライスを一口サイズ乗せて、差し出した。
「どうぞ、尾崎支配人。」
「ありがとう。」
すでに割箸を持っていた尾崎支配人はその場でオムライスを口に放りこんだ。
「うまい。チキンライスも包んでいるオムレツもうまい。すごいな、君は。」
「いえ、僕なんて。」
「調理師免許を持っているのか?それか、そっち系の学校にいたとか?」
「僕は中卒で、ずっとフリーターでした。だからこそ、こんな僕を拾ってくれた指原さんの為にも、ここに骨を埋めるつもりです。」
「そうか、昼からも頑張ってくれ。」
「はい。」
尾崎支配人の目に光圀は眩しく映った。
〇昼休みが終わり、光圀はメモをとりつつ、動き回っていた。
先輩スタッフや今まで関わってこなかったメンバーにも、優しく接し、弱音も吐かずに光圀は頑張って、あがる時間になった。
「大塚君、お疲れ様。少し、話がある。」
尾崎支配人と会議室に連れて行かれた光圀を待っていたのは莉乃だった。
「指原、あれを。」
「はい。大塚さんに私達からのプレゼント。」
「ありがとうございます。・・・これって!?」
「色々苦労してきた君になら、この劇場の一員になることを許可できる。」
なんと光圀は研修期間を一日で終了させ、正式なマネージャーとなったのである。
これから、光圀を待つものは?