実験
莉乃は実験がしたくなった。
千尋がどの位光圀似なのか、光圀が今でも自分を愛しているのかの実験である。
ちょうど光圀と千尋は歴史探求の為、出かけていた。
「美晴。おじいちゃん、おばあちゃんの所に行くよ。」
◎
「一人で寂し」
「二人で参りましょう。」
「見渡す限り」
「ヨメナにトンボ」
水戸黄門第三十二部仙台の話の挿入歌を唄いながら、光圀と千尋が帰ってきた。
玄関先に便箋があり、光圀は目を通すと、スマートフォンを取り出した。
『大塚光圀、千尋様
明日の夕方までに二人で私の実家に来てください。間に合わなかった場合、二人と離縁させていただきます。 指原莉乃』
「お義母さん。··大塚です。··一つお願いが、··莉乃が家出しまして、··確実にそちらに向かっています。··家に上げた上で、俺達が迎えに行くから、絶対に家から出るなとお伝えください。··失礼します。」
「父上。どうかなさいましたか?」
「莉乃、母ちゃんがばあちゃんの所に行ったから、明日行くよって、電話したんだ。」
「父上。私もお連れください。」
「あぁ、付いて参れ。」
「その前に手洗い、うがい。」
「そうだね。洗面所へ行こう。」
千尋が動いたのを確認すると、光圀は、明日本来面会するはずだった美音に謝罪文を送信した。
「莉乃が家出した。ただ、行き先は実家の為、心配はない。こちらを優先したいので、そっちには行けない。」
「解りました。」
◎
お昼頃、光圀と千尋の姿は別府湾SAにあった。
「千尋。目の前に広がるのが、別府湾、海だよ。」
光圀のその瞳は二児の父親というよりも純粋無垢な少年のようだった。
当然、血縁関係者達が同じようになるのは、仕方のないことである。
◎
「お邪魔します。」
「お邪魔します。」
「千尋。お前は美晴を確保しなさい。」
「はい。父上。」
「莉乃。迎えに来たぞ。」
「美晴!大丈夫?」
実験は大成功。
愛娘のその姿は捻挫事件のときの
旦那さん、光圀の姿そのものであり、今、自身をその腕の中に閉じ込めた光圀に愛の疑いなどない。
「離縁なんてさせんよ。千尋と美晴の母親は、俺の嫁はオメェにしか務まらん。莉乃。俺に悪いところがあるなら、教えて欲しい。」
「そうね。私達にも料理教えて。」
「その前に福岡に帰るぞ。」
「温泉入らずに帰れるの?」
二人のやり取りは何年経っても微笑ましいと思っている目があるのに気付くまでに二人のやり取りは続いた。