志願
美音の元にニヤニヤした母がやってきた。
「美音。これは何?」
母の掌中には進士が美音に送った指輪があった。
「お母さん。返して。」
「百田さんだっけ?あの人にもらったんでしょ?」
「そうだよ。」
「いつ頃、家に挨拶に来るの?」
「百田さんは、お母さんを探しに外国へ行っているの。いつか必ず私を迎えにくるっていう約束なの。」
「明日っていう線はないとして、今のままじゃマズイでしょ?」
「それはそうだけど。」
「カレー作るから手伝って。」
「その為!?」
「旦那さんの胃袋を掴むのが良い妻への第一歩よ。」
(あれ?百田さんって、日本人のハーフで、確か大塚さんの叔父さんに育てられた部分があったような?)
そう、進士は和食の方が好みであるという見解が美音の中で生じた。
〇
田中美久の引率者として光圀が東京へやってきた。
「みくりん、大塚さんをちょっと借りて良い?」
「あ、はい。」
「どうした、向井地?」
「ちょっとあっちへ。」
「分かった。田中、またな。」
わざわざ人払いをさせていることから進士絡みのことだと理解した光圀は美音の言葉を待っている。
「大塚さん。私に料理、和食を教えてください。」
「なんで、俺なんだ?」
「大塚寿司に教わると企業秘密的なことが関わると思いまして、それに、大塚さんなら私の気持ち解るでしょ?」
「ちょっとだけ、昔の莉乃を思い出した。俺で良いって言うなら、一肌脱ごうじゃねぇか。」
「よっ、クニさん!」
「俺とお前の仲だ。これからは俺のことはクニさんと呼んでくれよ。美音。」
「はい。クニさん。」
美音は光圀に敬礼した。
そんな二人の様子を盗み見る人物が二人いるとは彼等は知らなかった。