ハロウィンB
今日は何度目かのデート、その内容は?
昭和のアイドルがAKBに対して吹き込んだ知恵、ディズニーハロウィンで仮装してデートと思って、二人は調べたが、美音のやりたいプリンセスが多く、規制が多いこと等で、買い物デートをして、ついでに進士の部屋を訪ねるデートとなった。
デート当日、進士はマスクをして現れた。
「進士君。大丈夫?」
「まぁ、なんとか。」
進士の顔色が悪いことを見てとった美音が進士のおでこに触れた。
「大丈夫じゃないじゃないですか。ちょっと待っててください。ドラッグストアで薬とか買ってきますから!」
進士は発熱していて、美音は駅ビルに向かって走りだした。
「はい。お待たせ。百田さん。お家まで頑張ってください。」
「でも」
「デートはその気になれば出来ます。」
「解ったよ。」
進士が運転しているのは、例のごとくレンタカーである。
進士はあくまで東京都民で地下鉄、地上を走る電車と電車での移動が多かったことが理由である。
助手席に座る美音は発進早々、スマートフォンを取り出し、少しいじった後、ポシェットにしまった。
◎
進士はなんとかアパートまでやってきた。
「百田さん。私に掴まってください。」
「ちゃんと歩けるよ。」
「今日位、私に頼ってください。」
「解りました。」
進士は美音の肩を借りて、二〇二号室へ向かった。
そこは机、布団といった必要最低限の物のある江戸の長屋暮らしの住人の住まいに近い進士らしい空間だった。
「お粥作りますから、しばらく横になっていてください。」
「ご飯は冷凍庫にパックしてあるからそれを使ってくれ。」
進士が横になり、静かな空間、時間が流れた。
自分が借りた部屋に他人が、恋人がいるのが不思議な気がしつつ、進士は目を閉じる。
「お待たせしました。卵粥です。冷蔵庫に卵があったので使わせてもらいました。」
美音のお粥完成の声を聞いて、進士はゆっくりと身体を起こした。
「ありがとう。」
「はい。百田さん。あーん。」
「一人で食べられるって。」
「百田さん。あーん。」
「(無言で口を開けています)」
進士が口を開けた瞬間、美音はスプーンを進士の口に入れた。
「美味しいですか?」
「もう少し塩気が欲しいな。台所の下から醤油を持ってきてくれるかな?」
「はい。」
美音が席を外した瞬間、進士は鍋の取っ手を左手に持ち、右手でスプーンを持って、美音が作ったお粥を口に掻き込んでいった。
「ん、うぅん。」
そのおかげで進士は苦しみだしてしまった。
そこへ美音がペットボトルのお茶を持ってやって来る。
「はい。百田さん。お茶。」
お茶を飲み、お粥を胃に流し込んだ進士は美音に対して疑問が発生した。
自分が美音に頼んだのは、醤油であって、お茶ではなく、美音はお茶だけを持ってきたのだ。
「百田さん。百田さんが私のことが好きなのに照れ屋さんなのは今度こそ絶対に忘れませんから。」
進士は美音にしばらく敵いそうにない。
「百田さん。赤くなった。」
「これは熱のせいだよ。風邪引きだから、寝るわ。」
「その前にお薬、飲んでください。」
「そういえば、美音はいつまで家にいるつもり?」
「早くて明日。百田さんの風邪が治るまで。だから、ゆっくり治してくださいね。」
「親御さん心配させる元だから、早めに治すって!」
「何はともあれ、お寝んねしてください。」
「お休み、美音。」
美音の看病もあり、進士は一日で風邪を治し、二次被害もなく、美音を無事に埼玉県へ帰すことが出来たのだった。