ハロウィンA
計算したのだから、妊娠しないはずはなかった。
病院で懐妊の結果を聞いた彩は、旦那である正輝にどう説明するか、どう切り出すかで迷っていた。
「彩、彩。」
「何?正輝。今日、休みやのに、どないした?」
「久しぶりに海遊館行かへん?」
「一人で行ってこいや。」
「もうすぐハロウィンやし、彩の顔にびっくりメイクしてから行くわ。」
「わかった。わかった。行けばえぇんやろ。」
なんだかんだ言いながら、彩も海遊館へ行くことになった。
「なんで、私を誘ったん?いつも、海遊館行ってくるってフラッと行くくせに。」
「彩。何か迷っているみたいだったから。作詞で煮詰まっているにしろ、気分転換したら、えぇやん。」
(流石、元犬というか、勘は鋭いねんな。)「正輝。」
「もう、駅や。」
懐妊を切り出そうとした彩だったが、電車が駅に着いた為に、正輝に手を握られ、軽く引っ張られてしまうのだった。
しかし、正輝はホームに降りるや否や、彩の手を離してしまうのだった。
「彩の手は両方とも商売道具やったな。」
「強くなかったから問題ないで。」
「・・行こうか。」
「せやな。」
変な空気もこの瞬間だけ、正輝は天保山の交差点に行くと子供のようになった。
彩はそんな正輝を見ながら、微笑んだ。
「なぁ、正輝。マーメード行かへん?」
「えぇで。」
海遊館の内部にあるカフェ、マーメードに二人は移動した。
「ジンベエパンやって。買おう。彩は何にする?」
「バニラアイス。」
「席取っといてな。」
(子供になる正輝。いつまでも子供にさせるわけにはいかへん。きちんと言わんと。)
「彩。お待たせ。」
「ありがとうな。」
「そういえば、悩み事はスッキリしたん?」
「否。まだや。」
「そうか。早く食べへんとアイス融けるで。」
(私のお腹に正輝の子がいるって言わな。)
「彩。これ持っておいて。ほんで早くバニラアイス食べ。」
彩が思案している間にアイスが融け、服の上に付いた為、正輝は半分程になった自分のアイスを彩に渡し、彩の服をハンカチでシミにならないように処理しだした。
(ときどき、真剣な顔になるコイツのこと、私やっぱ好きや。)
「こんなもんやろ。」
「あんな、正輝。私、あんたの子を妊娠した。」
「ほんま?」
「嘘ついてどないすんねん。」
「ひょっとして、これ言うかで、迷っていたん?」
「まぁ。」
「どっちか判ってないよな?名前、大塚さんに決めてもらってええかな?」
「気が早すぎや。」
彩が懐妊の話をすると正輝は大いに喜んだ十月の一コマだった。