唇の働き
事情聴取を終えて、光圀と正輝は大塚家へと帰ってきた。
二人を出迎えるのは当然、嫁である莉乃と彩である。
「只今。」
「帰る前に連絡は入れたよな?」
「心配させんといてや。」
「怪我とかしていない?」
「大丈夫だから、食事にさせてくれへん。」
「子供達は?」
「寝ているに決まっているでしょ。」
「えーん。えーん。」
夫婦の会話をさく赤ん坊の声がした。
「仁。」
その声に反応したのは正輝で、続いて彩、美晴の可能性も視野に入れた莉乃、光圀がリビングに行ったとき、大人達は目を丸くした。
そこでは、千尋が寝ぼけながら仁に風車を吹いてあやしていたのだった。
「全く、そこまで俺に似るなよ。」
宮田さんの家で子供達はお昼寝、母親達はおしゃべりをしていたときに、敬司が泣き出して、光圀が寝ぼけてあやしていたのは両家の伝説である。
しかも、最近の千尋は光圀及び水戸黄門の影響を受けて、光圀を父上、莉乃を母ちゃんと呼んでいる始末なのだった。
◎
上司の方から今回の件について言われた進士だったが、
「メンバーのピンチ、大塚さん、仲間のピンチにグループが違うなんて言っていて、良いわけがない!」
と強く言い放った。
そして、夜に美音との密会でも当然その話になるのだった。
「百田さん。どうして、あのときHKTの会場に行ったんですか?」
「まぁ、上司への報告は済んだから、言うと、親父さん、昔からお世話になっている男性に頼まれてさ。その人の名字は大塚。大塚支配人の叔父にあたる人物だ。心配かけて、ごめん。」
「百田さん。本当にそう思っているなら、チューしてください。」
ゆっくりと進士は美音の唇に自身のそれを重ね合わせた。
「これで良いのか?」
数秒の後、進士は興奮から早口で美音に尋ねた。
「ダメです。もっと。」
「イチャイチャタイム終了。早く部屋に戻って寝ろ。」
そう言う進士の月明かりに照らされた耳が赤くなっているのを見ながら、美音は微笑み、進士を追いかけるのだった。