物語
上の空
ここは秋葉原駅の一角、進士は美音を待っている。

楽屋前で抱き合ったあの日の内にこんなラインのやり取りがあった。

「業務連絡。次の休みはいつですか?」

「〇日が一日休みですが、他に知りたい日付はありますか?」

「百田さん。私達、恋人になったんですよ。デートに行きませんか?」

「急に言われても(汗)どこか希望はありますか?」

「百田さんと一緒なら、どこでも良いですよ。」

「分かりました。スカイツリー、その中にある水族館へ行きましょう。秋葉原駅〇〇に集合ですが、時間はどうしましょう?」



恋愛禁止はほぼ解禁されたとはいえ、移動手段が電車の為、バレないように対策はしている。

「進士君。お待たせ。」

「陽子ちゃん。俺も今来たところさ。」

対策、進士と大学の同期〇〇陽子が交際していて、二人とも眼鏡をかけていて、人目のあるところでは、進士君と陽子ちゃんとして行動するというものだった。

「行こうか?」

「はい。」

二人は総武線のホームへ移動して、電車に乗り込む。

車内で美味しい展開が発生した。

そこそこに混んでいる車内で二人は吊り革に掴まっていたのだが、美音の身長が低い為、一度吊り革から手を離してしまったとき、電車が揺れて、バランスが崩れて、進士の胸に飛び込み、眼鏡が外れかけた影響で進士が美音を抱き寄せ、眼鏡をかけ直した。

「陽子ちゃん。大丈夫?」

進士の技で、美音の身体の方は大丈夫だが、ハートの方はますます進士のことを好きになってしまったのだった。

そこから先は上の空で、気が付いたときには、最寄り駅の押上駅の改札をくぐっていた。

「向井地さん。」

陽子を演じなければいけない現在の美音に進士は名字で呼びかけ、その言葉で現実に戻ってきた美音の眼前で、進士は右手を差し出していた。

「・・進士君。えっと何だっけ?」

「迷子になると困るから、手を繋ごうって、これで三回目なんだけど。」

「案内お願いします。進士君。」

美音は進士の手に自身の手を重ねた。

「上を見てごらん。これがスカイツリー。」

進士はこの後、子供のように水族館の魚達について語った。

このデートで、また進士のことを知れた為、手帳のページが一ページ消化された。

■筆者メッセージ
一五○センチあれば吊り革位掴まっていられるだろうけど、おいしい方に転ばしました(о´∀`о)
光圀 ( 2019/09/25(水) 11:43 )