聞き込み
知らないから知りたいと思うのだ。
ただ、その対象が異性なだけで、特別な理由はない。
面会時間に進士がやってきた。
ただ、今日はオフなのかスーツではなかった。
「向井地さん。似合うと良いんですけど。これを。」
「ありがとうございます。」
中身は可愛いストラップで、他にも種類があったとして、それをどれにするか迷っている進士を想像したら、笑えてきた。
「百田さん。座ってください。今日は色々聞きたいんです。」
「あまり人に自分のことを言うのは好きじゃないんだけど。」
そう言って、進士は椅子に腰掛けた。
「まずは、誕生日と血液型、お願いします。」
「まぁ、二千年四月十五日。血液型はA型。」
「出身地は?」
「一応、東京です。」
「一応ということはご両親が?」
進士が他人に自分のことを話したくない理由は、ただ一つだ。
「向井地さん。一度しか言わないぞ。俺は親に捨てられた。そして、施設で育った。あまり、人に自分のこと言うのは好きじゃないんだよ。」
「ごめんなさい。百田さんのこと、覚えていないから、知りたくて。」
「他に知りたいことは?」
「え?でも。」
「誕生日と出身地と名前の由来位でしょ、個人的なデータは。後は多少の違いはあるだろうけど人間が持つ情報でしょう。それに向井地さんに泣きそうな顔されるとなんか嫌な気持ちになる。」
「とりあえずオーソドックスなやつ聞いていきますね。というより、聞かれたくないものを先に挙げてくれますか?」
「そうだなぁ。・・・」
こうして、美音は進士を知っていった。
面会終了時間前、看護師がやってきた。
「向井地さん。お連れの方も聞いてください。・・医師から、検査の結果、向井地さんの脳、人体に医学的異常はなく、明日退院出来るとのことでした。」
医師のお墨付き、ゴーサインは出たが、結局美音はあの事件の前の進士のことを覚えていないことに変わりはない。
「良かったですね。向井地さん。」
「でも・・・。」
「今日までに僕のこと、これだけ知ることが出来たでしょ。なら、問題ない。」
「百田さんがそれで良いなら良いですけど。」
「それじゃ、今日は帰ります。明日、荷物持ちと護衛に来ますね。」
「あ、はい。」
「失礼しました。」
「明日か。」
仕事に戻れる喜びよりも勝っている感情にまだ美音は気が付いていないようだ。