美音
AKB愛の深い向井地美音はセンター試験で一位になった。
二千十九年の正月、美音は不思議な夢を見た。
スーツを着た男性に腕を掴まれている自身を目の当たりにする夢である。
「人間を守れ。」
男性の姿がはっきりと美音の目に飛び込んできた。
その人物は大塚光圀。
先輩、指原莉乃の旦那さんになった男性で、そんな人物が美音に呟いた言葉がどうにも引っ掛かった。
HKTとの仕事のある日、美音は光圀を尋ねた。
「大塚さん。」
「み、向井地さん。どうしました?」
「あの、変なこと聞いて良いですか?」
「なんだい、急に?」
「大塚さん。私にどこかで会ったことありますか?」
「・・否。仕事で何回か顔を合わせてはいるだろうけど、話すのが初めての向井地さんにどこで会うと?急いでるから用はそれだけ?」
「あ、すいません。本当に変なこと聞いて。失礼します。」
すると、入れ替わるように田中美久が光圀の側にやってきた。
「大塚先生。さしこちゃん達が来ているって本当ですか?」
「来ているよ。あいつ今妊婦なんやから。」
「手取り足取り腰取りとかしているんですか?」
「別にえぇやなか!夫婦なんだからえぇっちゃろ!」
「大塚先生って昔から単純ですね。」
「もうじき出番やろ。切り替えな。」
美音は美久を捕まえることに成功した。
「ねぇ、美久ちゃん。大塚さんってどんな人?」
「大人みたいな子供っていうか、からかったときは鼻が膨らんで早口になって時々訛る人ですかね。なんでですか?」
「去年、山本先輩のところもマネージャーさんと結婚したから、対策を考えようかなって。それだけ。」
美久の言葉通りなら光圀は美音と会っているはずだが、その答えは夢の続きにあると考えることをやめた。
「光圀さん。良い人だったな。」
前回と同じような夢を見ている美音だが、目の前の彼女は今にも泣きそうである。
「私は灰になっても、貴方だけは逃がす。貴方は私が人で居られた証だから。」
そう言って、美音が土に埋めているのはリストバンドだった。
美音の右手首を見たとき、オリジナルの美音は息を飲んだ。
彼女の手首に一本の線、自身にはない傷を発見したからである。
「人間を守る。私は人じゃない。でも、光圀さんは私を友達と呼んでくれた。だから、アイツと地獄に行く。」
そう言う傷を持つ美音は、とある家へ入り、大爆発を起こし、辺りは火の海になった。
そこで美音は目を覚ました。
いの一番に周りと自身の右手首の確認をした。
就寝前と同じ状況に美音はホッとした。
「ドッペルゲンガー。」
大塚光圀は美音と同じ姿の存在と会っていて、その存在の記憶が自身に飛んできたと美音は片付けた。
しかし、それが間違いであることになる事件が起こるとはまだ誰も知らない。