寝言
いつもは時間のかかっている月曜日の仕事がすんなりと終わった。
晩御飯と入浴は由紀が済ませてくれているんだろうけど、幼児が一人で留守番をしていると思うと、俺は無我夢中で部屋に急いでいた。
「只今」
俺の声を聞くと奥から普段着姿のマユちゃんがやってきた。
「おじちゃん。お帰り、お帰りなさーい。」
マユちゃんは涙を流しながら、俺の胸に飛び込んできたのだ。
きっと今まで、由紀との二人暮らしのときから不安や寂しさがあったんだろうとマユちゃんの背中をさすってあげた。
嗚咽が収まったとき、俺達はゆっくりと離れる。
しかし、マユちゃんの顔を見て、俺はティッシュを渡すしか出来なかった。
「マユちゃん。鼻水、垂れているよ。可愛い顔が台無しだよ。」
◎
俺とマユちゃんはファミレスにいる。
マユちゃんが俺という保護者を得たことで、外に出たいと発した為だ。
由紀に知られたら、大変とマユちゃんが要求を言って数秒はそう思ったが、俺自身が夕食を済ませていないこと、由紀が俺の面倒は見ないという複合条件の元、俺に付き合わされたことにして、現在に至る。
「ねぇ、おじちゃん。」
「ん?どうした?」(トイレかな?)
「おじちゃんの下の名前って、リョウマだよね?」
「そうだよ。」
「ママがときどき、リョウマって寝言言っていたけど、それっておじちゃんのことなのかな?」
「・・昔の人で坂本龍馬って人がいるから、その人かもよ。」
「じゃあ、なんでおじちゃんはママのことを由紀って呼ぶの?」
「昔からの知り合いだから、昔の呼び方しているだけだよ。」
「そっか。」
マユちゃんの純粋な質問に俺はさっきからドキドキしっぱなしだった。
◎
部屋に帰り、マユちゃんと歯みがきをして、俺がシャワーを終えると、マユちゃんは寝ていた。
俺は真実を知る為に、部屋中の引き出しを開けた。
「やっぱり。」
俺はその引き出しを閉めて、得た真実に見て見ぬふりをして、寝床につく。
「パパ。私に会いに来て。」
悲しそうなマユちゃんに俺は背を向けて、目を瞑り、眠りに落ちていった。