家出
正輝が人間になった為、美瑠は正輝も観察出来るようにした。
ただ二人はお互いを思っているのに別居を始めるという情報を得た。
正輝の独立宣言を経て、正輝は物件を探した。
山田菜々の一件がある為、彩は手伝わない。
正しくは、正輝に出て行ってほしくないのだ。
それは観察をしている美瑠も同じ気持ちだった。
しかし、女性達の望みとは逆の結果がもたらされた。
「彩。物件が見つかった。」
正輝のトーンも低かった。
「いつ、出て行くねん?(出て行くな。正輝)」
「荷物まとめたらだから、明日かな?」
「今日は私が飯、作るわ。」
今回ばかりは美瑠は観察を続けた。
二人はお互いを思っているが故に現状に至っている。
二人の本音が見たいのだ。
いつもなら、子供のようにリアクションをする正輝の口は咀嚼するだけだった。
「正輝。美味しいか?」
「美味しいよ。彩?どうかした?」
「いつもリアクションしているのに静かやからな?」
「しばらく、彩のご飯が食べられないかと思って、味わって食べていたんやけど。」
「そうか。けど、早く食わんと冷めるで。(出て行かな、済む話やないか)」
夕飯が終わり、入浴をし、二人はいつものベッドに潜り込んだ。
二人は反対側を向いて目を閉じた。
数分経ったとき、彩の目が開かれた。
「なぁ、正輝。もう寝たか?」
正輝も目を開いていたが、答えなかった。
「正輝。出て行くな。警察みたいに手錠あったら、私と繋ぎときたい位、離したくないねん。・・今までありがとうな。」
(それはこっちのセリフだよ。彩。羊が一匹、羊が・・・)
二人は羊を数えて、迎えたくない朝を迎えることにした。
◎
二人は朝食をほぼ無言で食べて、歯磨きをして、着替えをした。
「財布、スマホ、スーツケース・・・」
(正輝、頼む。一個でもえぇから、忘れてくれ。)
正輝は忘れ物をすることなく、家を出ることになった。
「彩。今までありがとうな。」
「なんやねん。急に。」
「いつも思っているけど、口にせぇへんだけや。前も言ったけど、彩の為に僕は出て行くんや。解ってな?」
「何かあったら、連絡せぇよ。(撮られたら撮られたでえぇやないか。)」
「彩。ダイエットとか言ってご飯抜いたらあかんで。ジャンクフードに走る気もあるねんから。」
「そう思うなら、たまに覗きにこいや。」
「仕事で会うから、彩の変化はすぐ判るわ。・・ほな。また、仕事先でな。」
「あ、おぅ。」
正輝は荷物を持って、ドアから出て行った。
「忘れ物一個位せぇよ。アホ。」
文句を言った彩は呼吸をして、正輝に聞こえるようにその場で叫んだ。
「正輝!早く帰ってこい!」
本来、防音システムで聞こえるはずはないが対象者の正輝がドアに寄りかかっていて、まだ出発していなかった。
「彩。ごめんな。」
正輝はこの短い人生の中で長い間泣き、しばらくその場から動けなかった。