観察日記
雨と傘
その日の大阪は曇り空だった。

正輝と彩の二人は台湾から帰国後、恋人になった。

運営から大阪に正輝は残るように言われ、彩は東京で仕事となった。

そして、美瑠の視界の中で、正輝はどこかへ連絡している。

能力で、美瑠にはその内容が手に取るように解る。

「彩。新幹線、動いている?・・何時に帰ってくる?・・傘は持っている?・・なら、駅前集合な。」

彩サイドでの内容はというと、

「心配あれへん。・・東京駅出たら、到着時間連絡するわ。・・持ってへんから、降っても降らんでも駅前集合や。」

そんな会話がされていた。

美瑠は本音を言えば、雨を待っていた。

二人に相合い傘をして欲しいのと、正輝に風邪を引いてもらって、看病する彩を見たい二つの欲求を満たすことができるからだ。

仕事が終わり、外を見れば、雨が降っていた。

美瑠は、折り畳みの傘をバッグに入れていたが、正輝を捕まえるかことに成功した。

「加藤さん。なんで傘二本持っているんですか?」

「あ、あれだ。山本さんが風邪を引かないように、いつも二本持っているんだけど、つい癖で。白間さん。傘は?」

「持ってくるの、忘れて、コンビニまで走ろうかと。」

「ほな。貸しますわ。」

「一本なら、相合い傘が出来たのに、ありがたくお借りします。」

お人好しな正輝の性格を考えたら、これまでのやりとりは美瑠の中では想定内だった。

「気を付けて、帰るんやで。」

それだけ言うと、正輝は走りだした。

(ヒントは出したんやから、加藤さん。頑張って!)

美瑠は小さくなっていくその黒い背中へエールを送った。



ここからは例のごとく、観察映像になる。

駅前で、彩は雨を眺めていた。

そこへ上下黒服の男、正輝がやってきた。

「彩。待たせてごめん。」

「なぁ、正輝。傘は?」

正輝が一本、差している傘しか持っていないことに彩は疑問の声を上げた。

「これは、その、昔の僕みたいに雨晒しな子犬を見つけて、そいつに。それに彩を待たせるのも気が引けて。今から、コンビニ行って」

「アホ。たまには恋人らしく、相合い傘で帰ったらえぇやろ。」

「ほな。行こか?」

「私以外とするなよ。」

正輝が彩の方へ傘を傾け、雨に濡れた比率が多いのは正輝の方なのに、彩が風邪を引いてしまうのは別の話。

■筆者メッセージ
思いついた話を三回に渡ってお送りします。
まずは、相合い傘。
後、二つの話はなんとなく分かると思いますが、お楽しみに。
光圀 ( 2018/11/19(月) 05:02 )