雨と傘
その日の大阪は曇り空だった。
正輝と彩の二人は台湾から帰国後、恋人になった。
運営から大阪に正輝は残るように言われ、彩は東京で仕事となった。
そして、美瑠の視界の中で、正輝はどこかへ連絡している。
能力で、美瑠にはその内容が手に取るように解る。
「彩。新幹線、動いている?・・何時に帰ってくる?・・傘は持っている?・・なら、駅前集合な。」
彩サイドでの内容はというと、
「心配あれへん。・・東京駅出たら、到着時間連絡するわ。・・持ってへんから、降っても降らんでも駅前集合や。」
そんな会話がされていた。
美瑠は本音を言えば、雨を待っていた。
二人に相合い傘をして欲しいのと、正輝に風邪を引いてもらって、看病する彩を見たい二つの欲求を満たすことができるからだ。
仕事が終わり、外を見れば、雨が降っていた。
美瑠は、折り畳みの傘をバッグに入れていたが、正輝を捕まえるかことに成功した。
「加藤さん。なんで傘二本持っているんですか?」
「あ、あれだ。山本さんが風邪を引かないように、いつも二本持っているんだけど、つい癖で。白間さん。傘は?」
「持ってくるの、忘れて、コンビニまで走ろうかと。」
「ほな。貸しますわ。」
「一本なら、相合い傘が出来たのに、ありがたくお借りします。」
お人好しな正輝の性格を考えたら、これまでのやりとりは美瑠の中では想定内だった。
「気を付けて、帰るんやで。」
それだけ言うと、正輝は走りだした。
(ヒントは出したんやから、加藤さん。頑張って!)
美瑠は小さくなっていくその黒い背中へエールを送った。
◎
ここからは例のごとく、観察映像になる。
駅前で、彩は雨を眺めていた。
そこへ上下黒服の男、正輝がやってきた。
「彩。待たせてごめん。」
「なぁ、正輝。傘は?」
正輝が一本、差している傘しか持っていないことに彩は疑問の声を上げた。
「これは、その、昔の僕みたいに雨晒しな子犬を見つけて、そいつに。それに彩を待たせるのも気が引けて。今から、コンビニ行って」
「アホ。たまには恋人らしく、相合い傘で帰ったらえぇやろ。」
「ほな。行こか?」
「私以外とするなよ。」
正輝が彩の方へ傘を傾け、雨に濡れた比率が多いのは正輝の方なのに、彩が風邪を引いてしまうのは別の話。