監視
正輝は光圀の対応をきちんとし、光圀が難波にいるのも残りわずかとなったある日、彩によって衣装室に引きづりこまれた。
「山本さん。どうしたの?」
「みるるんが大塚さんとデートするらしいねん。二人が変な気を起こさないように、監視したいから、私と恋人のふりしてくれ。」
恥ずかしさからか最後の方は声が小さくなったが、彩は正輝にお願いをした。
「わざわざ、こんなところに連れ込まなくても、ええやないですか?」
「アホ。壁に耳あり、障子に目ありや。作戦とはいえ、私らがカップルに間違えられたらあかんやろ。」
「その日は彩呼び、正輝呼びでかまへんですか?」
「好きにせい。」
(あれ?大塚さんって、博多で交際相手がいるんじゃ?)
そんな疑問よりも彩とふりとはいえデートができることの方が正輝には嬉しかった。
〇
彩発案の作戦の影響で正輝は天保山の交差点、キリンのブロック前で恋人役の彩を待っていた。
「正輝。ごめんな。待ったやろ?」
そう言葉を発する彩は正輝が見てきた中で準最高に可愛かった。
可愛さを損ねているのは彩の耳にイヤホンが入っていることだった。
「彩、そのイヤホンって補聴器?」
「そんなわけあるか。みるるんのバッグの中に盗聴器をいれたんや。あの二人、観覧車パックで入るらしい。早く行くで。」
「あ、あぁ。」
恋人のふりの影響か、彩は正輝の手をがっちり掴んでいた。
「ホンマか。」
「どうしたん?彩。」
「大塚さんの会話も聞こえるんやけど、ペーパーテスト一位とは思えへん位、子供になってて、正輝みたいに・・。」
光圀と正輝は同い年、同期である等共通点が多かった。
「やっと追いついたわ。手はつないでへんな。」
足早に二組はジンベエザメの水槽の前にやってきた。
「やっぱり、本物は違うな。愛らしか!」
「そろそろ、食事の時間かな?」
「正輝。」
彩は正輝が子供のような言動を起こす前に唇を奪った。
(彩。ちょっと、離れて。)
恋人のふりとはいえ、彩の大胆な行動に正輝は驚き、彩の肩を叩いた。
「彩。下の方でジンベエザメを見よう。エスカレーターに乗らへんかったら二人を止められるやろ。」
「そやな。」
二人の頭には同じ思いが浮かんでいた。
(うるさいわ。心臓!止まってくれ。否。止まったらアカンけど、こういうときどうしたらええねん。)
正輝はカフェ・マーメイドに彩を連れ込んだ。
「正輝。どないしたん?」
「僕は大阪府民だから、来ようと思ったらいつでも来れる。だから、今日は我慢する。」
「明日は嵐か?」
「やかましいわ。」
光圀の意中の相手は莉乃であるが為に、先生と生徒に何も起こらなかったが、彩と正輝に動きがあったのは別の話。