無防備
例のごとく、光圀が帰宅した。
「只今。」
しかし、大塚家は静まりかえっていた。
足下を見ると莉乃の履き物はあった。
考えられる理由は二つある為、靴を脱ぎ、リビングに向かった光圀はすぐに胸を撫で下ろすことができた。
親子揃ってリビングでお昼寝からガチ寝に入った状態だった。
光圀は寝室に行き、カバンを下ろし、エプロンを着用して、タオルケットを持ってリビングに戻った。
リビングでは相変わらず親子揃って、無防備に寝ていた。
莉乃にタオルケットをかけてあげた光圀の目に彼女の唇が目に止まってしまった。
磁石のように光圀の身体は動いてしまい、莉乃の唇と久しぶりの接吻をした。
「無防備過ぎる莉乃が悪いんだ。」
光圀は自身の行動を正当化するように一人呟いた。
千尋をベビーベッドに移す為に娘を抱っこし、再度無防備に眠る妻を見て、光圀は口を開いた。
「ママ、初めての子育てお疲れ様。」
光圀は、リビングから寝室へ移動し、ベビーベッドに千尋を寝かした。
「千尋。もう少し寝てて良いからね。」
愛娘に話しかける光圀はもう良い父親である。
〇
光圀が晩御飯を作っていると、リビングから大声が聞こえ、光圀は手を止めた。
「千尋。千尋はどこ?」
「落ち着けよ。莉乃」
「あっ。光圀。千尋は?」
「リビングで寝ていると危ないからベビーベッドに俺が移動した。だいたいタオルケットがかかっている時点で俺が帰ってきたって思うべきだろう。」
「ごめん。」
リビングにいるのは今、二人だけ、正確には隣の部屋に大人しい愛娘がいるが、この状況に心拍数が上がっている光圀は、身を翻した。
「料理、途中だった。千尋、連れてきてくれ。・・・只今。」
「?・・・お帰り」
光圀の言動に疑問を抱きつつもツーカーのように返事を莉乃は返した。
(莉乃の寝起き、可愛い。二人目いつにすべきなんだろう?)
光圀は今でも妻、莉乃にほれ込んでいる為に、複雑な思いを抱いていた。