お見通し
莉乃は出産の影響で入院することになった。
その為、光圀は一人で自宅に帰ってきたが、光圀はもう一人じゃない。
愛する妻、莉乃とその子供、千尋という家族、今日は沖縄に行っている同僚、上司、娘や生徒と呼んだHKTのメンバー、仲間、繋りが出来たのだ。
「みっちゃん。」
車を降り、ガレージから出た光圀に声をかける人物がいた。
大塚家の隣人、宮田さんの奥さんだった。
光圀の母、光と年齢はほぼ同じ位で、子供が二人いて、その子供達の真ん中の年齢が光圀ということから幼少期に家族で遊んだ記憶が光圀にはあったが最後に言葉を交わしたのは母の葬儀のとき位の人が一体何の用なのだろうか?
「久しぶりに話がしたくて、上がっても良い?駄目なら家でも良いけど。」
「なら、家に。」
「お邪魔します。」
客間、かつて共同生活のときにご飯を食べたあの部屋に宮田さんを通し、光圀はお茶を入れた。
「粗茶ですが。」
「みっちゃん。子供生まれたみたいね。」
莉乃と結婚ならびに彼女が懐妊したことは記者会見をし、多少ニュースになった程度とはいえ、五十前後の人が知っていることに、光圀は驚いた。
「奥さん、指原莉乃さんとの馴れ初め話だって知っているわよ。」
口止め料でも要求にきたのかと、光圀は目の前の女性が次に言う言葉を固唾を飲んで、待っていた。
なんていったって、莉乃達は催眠術でこの家にやって来させたアイドルであり、光圀は彼女達の慈悲で現在に至っているのだ。
「ごめんね。」
「え?」
口止め料五万円ではなく、光圀の目の前の女性は謝罪の言葉を言い出した。
「お母さんが死んでから辛かったよね。気がついてあげられなくて、本当にごめんね。」
「なんで急に。」
「子育て初めてのお父さんに色々アドバイスするのに挨拶が必要だと思って。」
「ありがとう。おばさん。」
「ところで、俺達のこと、どこから知っているんですか?」
「最初から。バラエティ番組の企画かと思っていたけどね。みっちゃんは面倒見が良かったから。」
光圀は小学六年生の夏休み、五年生以下の子供を小学校、プールまで引率した逸話があるほどである。
「もっというと近所の人はみんな知っているわよ。」
光圀はどこでもわかりやすいようだ。
「とにかく、これからもよろしくね。大塚さん。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ご近所さん。」
やっぱり、光圀は一人じゃない。