新しい朝
光圀が目を覚ますと隣にいる筈の莉乃がいなかった。
寝室から出ると、良い匂いが廊下に漂っていた。
キッチンから莉乃が出てきて、光圀は合点がいった。
「莉乃。怪我はしていないよな?」
「大丈夫だよ。ほら。」
莉乃は指を光圀に見せた。
彼女の左手の薬指に指輪が着いているのを見て、夫婦になったことを実感する光圀だった。
「莉乃の身に何かあったら・・・。」
光圀の心配の声は莉乃の唇によって止められた。
「心配しすぎ。昔と変わってない。」
「昔?結婚前に何かあったっけ?」
「とりあえず、ご飯食べよう。冷めるとあれだし。」
「あぁ。」
○
光圀と莉乃が十代の頃のことだった。
光圀と莉乃の共通点と言えばハロプロファンだったこと。
福岡でのコンサートで大分の少女、莉乃が走っていて、同じように走っていた眼鏡の男性、光圀とぶつかってしまった。
「ごめん。大丈夫?怪我とかしていない?」
その男性は、相手である自分のことを心配していたことが莉乃のハートを掴んでしまった。
「はい。絆創膏。良かったら使って。」
「は、はい。」
その男性にほれ込んでしまった莉乃は返事をすることしかできない。
「光圀。時間!」
「はーい。母さん。じゃあね。」
「光圀さん。」
夢のような時間が莉乃は体験したが、掌中の絆創膏が現実であったことを証明していた。
そして、奇跡が起こった。
光圀が誘拐犯として自分の前に現れたからだ。
ハロプロの曲の歌詞そのもので『運命を感じなきゃ嘘』と思って、光圀を思って今日に至る莉乃がいた。
「なるほど。って時間!」
昔話を聞いて光圀は慌てて準備をして、仕事に向かおうとしたとき、一時停止をして、
『チュッ』
「じゃ、行ってくる。」
思い切り莉乃の唇を奪って出勤した。
「馬鹿。」
閉まったドアに向かって呟く莉乃がいた。