恋人になった
光圀の車に、莉乃はなんとか乗り込んだ。
例の捻挫の影響である。
「よくできました。」
「これぐらいできて当然でしょ?」
相変わらず漫才のようなやりとりをする二人だが、その顔はどちらも笑顔である。
家の前の道に車を出したとき、光圀は突然のように口を開いた。
「莉乃。手」
「もう。」
光圀の言葉の意味を察した莉乃は、光圀の左手に自身の右手を繋いだ。
すると、今度こそ光圀が車を走らせた。
○
天神に着いた二人は、繋いでいた手を解いた。
「よし。」
光圀は、莉乃が降りたことを確認し、車をロックした。
「ほんじゃ、先行くな。」
光圀は、そう言って莉乃の右手に口付けをし、文字通り先に劇場に向かった。
メンバーとスタッフに公認の二人だが、週刊誌等に目をつけられるわけには行かない為、車中と家の中以外は距離を置くようにしたのだ。
ただ、光圀は運動を兼ねて、階段を使うのだった。
これが捻挫事件での光圀がいの一番に莉乃の元に行けたカラクリである。
「ふー。」
光圀が六階(劇場の階)に到着すると、エレベーターの方から遥(兒玉)がやってきた。
どうやら、光圀を待っていたようである。
「大塚さん。奥さんは?」
(なるほど、莉乃と俺がくっ付いてくると思って、冷やかそうって魂胆か)
光圀は、冷静に言葉を選びに入った。
「おいおい、兒玉。俺まだ独身だぞ。」
左手をご丁寧に見せて、確認させた。
「あー。じゃあ、彼女さんは?」
「誰のことだ?」
「さっしー以外に誰がいるの?」
「交際しているわけじゃ。」
「さっしーが捻挫したとき、一番にさっしーのところに行ったのに?出張明けのお姫様だっこはどう説明する気ですか?」
「デートができる相手でもないだろ。」
「じゃあ、大塚さんに良い情報を教えてあげる。」
兒玉は、光圀に情報提供をしだすのだった。