05
呻き声のような声を吐きながら、女性は今さっき僕が買ってきた水を飲んでいる。改めて立ち上がった女性を見るが、洋服越しから見てもとても細い身体つきの人だった。
モデルだろうか? それにしては化粧が濃すぎる気がする。それに――。
「ああー。楽になった。ありがとね、坊や」
老人とまではいかないにしろ、顔や性別に似つかわしくないほどにしわがれた声がモデルと結び付けるには、どうしても疑問符になってしまっている。
これがもしかしたら酒焼けの声なのかもしれない。そう思うと、女性は夜の仕事をしているのではないかと予想した。
「ねえ、お礼をさせてよ」
「え? お礼、ですか」
きっと同じ世代ぐらいの子から言われたら、僕はドキリとしながらも、飲み物かお菓子をくれるだけだろう。
けれど、女性は僕よりもずいぶんと年上で、色気を振り撒いているような感じに見受けられる人だった。まさか飲み物やお菓子なんかですまないようなお礼に違いない。
そう思うと、僕の身体の奥底がカーッと熱くなるのを感じた。まだ僕は童貞だ。もし、女性が僕の初めてが彼女となったら――。
「ファミレスでいい? 吐いたらお腹が空いちゃって」
「ファミレス?」
自分で出した小枝が、素っ頓狂な声だった。
「そうよ。それとも別のお店がいい? ああ、どうしても身体でお礼をしろと言うのなら、それでもいいけど。でも君、高校生でしょ? バレたらあたしが困るのよね」
金色の髪をサッと掻き上げながら女性は言った。見知らぬ男とのセックスなんて朝飯前だといわんばかりの言い方だった。
「いや、別にお礼はいいですよ。通りかかっただけですし……」
僕が思っていたことをズバリと言い当てられたようで、僕はボソボソと返すのが精一杯だった。白間さんとはまた違った女性。
不遜という言葉がピッタリと当て嵌まるような女性だった。
「ほら。お礼をしたいという相手がいるのに、それをさせないって逆に失礼よ。こういう時は相手の好意に甘えなさい。君だって女の子と食事に行った時、ここは自分が出すよって言ったのに断れれたら、なんだよって思うでしょ」
「まあ、そうです、かね」
想像してみる。ようやくこぎつけた江籠さんとの食事。かっこいいところを見せたくて、スマートに会計を済ませようとしたら、さっさと江籠さんが自分の分を出してしまった。
確かにそう考えると、女性の言葉は正しいような気がしてきた。
「断るっていうのは、意外と難しいものよ。タイミングや言い方があるの。相手の気持ちも分からずに、無下にしてしまったら、後々自分がやり返される日が来るわよ」
「……そうですね。じゃあ、お願いします」
昔話にある鶴の恩返しを思い出した。あれで恩返しを断っていたら、きっと物語として成り立たなかったはずだ。
僕が承諾すると、女性はくしゃっと笑って、僕の頭を撫でた。
「素直な子は好きよ」