02
テレビ画面では、芸人が身体を張ったリアクションを取っていた。わざとらしい笑い声が耳障りだった。
「つまらないわねえ」
「消しちゃえば」
それはどうやら僕だけではなかったようだ。母さんも奈々未姉も同じことを思っていたのだと知ると、なんだかホッとした。
「そうね」
テレビが消されると、静けさがリビングを包んだ。咀嚼音と、食器がカチカチと鳴る音が大きく聞こえる。
「奈々未は最近学校へ行ってるの?」
それに耐えられなくなったかのように、母さんが口を開いた。
「行ってるよ」
「まあ、奈々未は大丈夫だと思うけど。留年したらお父さんに何を言われるか。健太郎もいるし」
突然僕の名前が挙がり、僕は顔を上げた。
「あんたは大学へ進学するの?」
「まだ決めてないけど、たぶんそうかな」
高校へ入学したばかりだ。けれども、早くから進学を決めている人だっているはずだ。小嶋君とか。
「健太郎が大学へ入る頃には、奈々未は四年生か。またお金がかかるわねえ」
いつからだろうか。母さんがお金のことばかり、こぼすようになったのは。何かあればすぐにお金。もちろん必要だし、僕が知らないところで工面をしてくれているから文句は言えないけど、こういった場ではあまり言わないで欲しい。
「私立じゃなくて、国立へ行きなさいよ、そしたら」
「奈々未姉はそう言って、自分は私立じゃないか」
「あたしがやりたい分野で国立はなかったのよ」
国立へ行けるほど、僕は頭が良くない。今の高校へ入れたのだって、何とか火事場の馬鹿力を出したおかげだ。
きっと小嶋君なら余裕で国立へ行けるんだろうな。そう思うと、惨めになってきた。僕は何もかも彼に勝てない。いいところなんて、全くない。
「仮にそうだったとしても、僕に国立へ行けるだけの学力なんてないよ」
「だったら塾へでも行けば」
簡単に奈々未姉は言った。確かに僕はアルバイトもしていなければ、部活にだって入っていない。しかも、成績は中の下。
「お金がかかるわねえ」
顔をしかめる母さん。
「でも考え物よ。今から先行投資しておけば、後で楽になるかもしれないわ。国立大を出て、一流企業に行けば、充分見返りは求められると思う」
そうねえ、と納得する母さんを横目に、僕は奈々未姉を睨んだ。何が先行投資だ。人を株か何かと間違えているのではないか。
「どうせ健太郎はアルバイトもしていないし、いいかもしれないわね。健太郎、来月から塾へ行きなさい」
「ええー。ほんとに?」
奈々未姉が僕の肩をポンと叩く。
「目指せ国立。目指せ一流企業。いよっ、橋本家期待の星」
こうして、半ば強引に僕の塾通いが決まった。